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14
蓮見との契約を結んだ三日後のことだった。
「・・・え、マジで」
「そうらしいよ・・・・・・だったんだって」
「やべえ・・・混じってんのか、こわいな」
「お前はちがうよな?」
「ちがうちがう、やめてくれよ」
廊下ですれ違った男二人の会話が馨の耳に聞こえてきた。
「おい」
馨が声をかけると二人の男は振り返るなり、驚いた顔をして一歩後ずさった。
「わっ」
「?」
「あ、ご、ごめん、高月か」
最近、馨は「有名人」になってきたと灯馬が言っていた。新人で、いろいろすっ飛ばして真北の側で働いているのが知れ渡っているらしい。
「今の、なんの話だ?」
「あー・・・」
男たちは気まずそうに顔を見合わせた。馨が首を傾げると、ひとりが近づいてきて耳打ちをする。
「真北さんには黙っててくれよ」
なるほどそういうことか、と理解して、わかったと答えると、男は声をひそめてこう言った。
「エイリアンが出たって」
エイリアン。この「国」においてのSwichの呼び名。
馨はあえて驚いた風を装った。
「えっ」
「びっくりだよな・・・ここには選ばれたDomばっかりだと思ってたのに、混じってるなんてさ」
選ばれたDom。馨はここの理念の闇をかいま見た気がした。自分たちは世の中のために集められた特別優秀なDomだと信じて疑わない入国者たち。普段は穏やかに暮らしているが「有事」の時にはそのグレアを使ってどんなことでもやってやる、といった雰囲気だ。
悪寒を覚えながら、馨は話を合わせた。
「俺は知ってる奴かな」
「衛生部の大崎って奴。知ってる?」
「名前は聞いたことがあるけど、会ったことはないな」
「高月は特別棟で仕事してるからな。衛生部は主にSubの住居の方で働いてるから」
Subの住居の情報は今までなかなか入ってこなかった。これはチャンスだ。馨は出来るだけ自然に話を続けた。
「その大崎って奴はどうなった?」
「詳しくは知らないけど、同室の奴は今朝になったらもういなかったって。粛清だって言ってる奴もいたよ」
「粛清・・・って、そんなにやばいことしたのか」
「違うよ、そもそもエイリアンだってことがまずいんだ」
「・・・何でだ?」
「え?そりゃあ例の件があったからだろ?」
「例の件?」
馨が聞き返すと、男たちは再び顔を見合わせた。
「そうか、高月は新人だから知らないよな。前にさ、大きな問題っていうか、事件があったんだよ」
そう言って、男たちは声を落として、かつてこの「国」で起きた事件についてを説明し始めた。
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