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それは数年前。 まだ前任の盟主の頃の出来事だった。「国」の住民は今の倍の人数で、中には未熟なDomも多くいたという。前盟主は、未熟でもいいからとにかく人を集め「使える」ようになったらすぐにでも仕事をさせるという、少々手荒とも思われる方針で進めていた。 「どでかい集会があったんだ。世界中の同志たちが集まって、みんなでこの世の中をより良くしていこう、っていう」 実は集会とは名ばかりで、やってきたのは講演の後のSubのオークションが目的で集まってきた輩ばかりだったのだ。 そんなことはつゆ知らず、この「国」の住民たちは集まってきた同志たちと親好を深めた。そしてその晩、深夜にそれは起きた。 「プレイルームで爆発があったんだ」 「爆発?!」 「集会に招かれた客も、俺たち国民も巻き込まれて・・・プレイルームにいなかった俺たちは助かったけど、当時かなりの人が死んだんだ。後で聞いた噂だと、それがエイリアンの仕業だったらしい」 エイリアン、と呼ばれるそのSwichは、売買されるSubのひとりだった。海外の富豪に買われることが決まっていたその少年は、オークションが最高潮に盛り上がった時、ひっそりと仕掛けた爆弾の遠隔スイッチを入れた。そしてその上で自分のダイナミクスをDomにSwichし、そこにいるたくさんのDomを逃げられないように強いグレアで縛り付け、その後、爆発によってたくさんの人間が死んだのだ。 「・・・・・・そんなことが」 「まあ、噂なんだけどな。でもその後からエイリアンに対する規制がものすごくきつくなったっていうから、本当なのかもしれない」 「そのエイリアンはどうしたんだ?」 「間違いなく粛清されただろうね。そのあとそいつに会った奴はいないし」 「・・・・・・」 「なあ、本当に真北さんには黙っててくれよ。ここではこの話、絶対にタブーなんだ。バレたら首になっちまうから」 「もちろん言わないよ」 「これを機にエイリアンの疑いがある奴のあぶり出しの可能性もあるって。まあ、俺たちには関係ないけどな」 男ふたりは顔を見合わせて笑った。決して弱くはないが、彼らはこの国の中では平均的なグレアの持ち主。一般人の中に混じればかなり強い部類に入る。馨はそれよりもランクが上で、真北、蓮見はさらにずっと上だ。 エイリアン、すなわちSwichは規格外のグレアを持っていることがままある。馨はふと灯馬の顔が浮かんだ。 彼は無事に隠し通せているだろうか?相手のDomから暴露されたりしていないだろうか? 馨は気づいた。 自分が灯馬に友愛の気持ちを持っていることを。純粋でひたむきで、まっすぐにこの「国」を、「盟主」を信じている灯馬。自分は潜入捜査員として彼をも欺いている。 複雑な気持ちで馨の心が揺らいだ。内部の人間に余計な感情を持たないというのは鉄則中の鉄則。 馨が信じていいのは蓮見黎、ただひとりだ。 男たちふたりと別れると、携帯電話が鳴った。 真北からの連絡だった。 「もしもし、高月です」 「真北だ。すぐ来てくれ」 いつも冷静な真北の声が若干急いている。こんなことは珍しい。エイリアンの件が関わっているのかもしれない。 馨は答えながら歩き出した。 「わかりました」 真北が呼んでいるのは彼の執務室。馨は早足で特別棟へと向かった。
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