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馨は黎と向き合い、息を詰めていた。自分の意志を持ってプレイを始めることにひどく緊張していた。 「いいんですか・・・本当に」 額を突き合わせ、馨は黎に尋ねた。黎は答えず、小さくうなづいた。黎としてもそれが精一杯だった。馨はゆっくりと立ち上がり、ベッドに座り直した。そして始めのコマンドをおずおずと発した。 「・・・kneel」 声は弱々しくとも、コマンドの威力は確かだった。 黎は馨の足下にぺたりと座り込み、両膝をゆっくりと開いた。馨の目には、黎の普段と違う恍惚の表情だけが映り込んでいた。 馨は黎の顎を持ち上げ、視線を合わせた。 「good・・・boy・・・」 おそるおそる馨は言った。自分を見上げる黎の瞳に、明らかな安堵の色が浮かんだのを見て、馨は黎の髪を撫でた。その感触を味わうように黎は瞼を閉じる。そのまましばらく黎の髪を撫でていたが、馨は耐えかねたように言った。 「look」 優しい言葉だがコマンドには変わりない。黎は瞼を開けて、馨を見上げた。 「俺の手を握って」 黎は馨の手を見ずに、それに触れた。自然に指と指が絡み合い、上半身が近づく。馨は黎の背中に腕を回した。抱き留められた黎は身体の力を抜いて、馨にもたれかかった。 黎はそれだけでサブスペースに入った。 馨はこみ上げる欲望に抗うことは出来ず、そのまま声に出した。 「kiss」 サブスペースに入った黎は、ゆっくりと馨に顔を近づけた。 瞼を薄く開けたままで、黎は馨の唇に自分の唇を重ねた。上唇を軽く噛むように唇を動かす黎に、馨は腕の力を込めて抱きしめた。 「・・・strip」 次に馨の口をついて出たコマンドは、二人にとって思いも寄らないものだった。 馨は黎を抱こうとしていた。今までの関係ならありえない状況だった。ランドオブライトの壊滅、そして帰る場所のなくなった二人が、互いの欲求を満たすことの出来る相手とともにここに居る。 黎は、暖かさと安心感の中、馨のスウェットの上衣を脱いだ。鍛えられた上半身が露わになる。首にはプラチナのネックレス。 黎は続けて、スウェットのズボンを脱いだ。下着だけになり、自らkneelの姿勢を取る。 馨はそんな黎を見下ろしながら自分も服を脱いだ。ひっくり返ったTシャツを放り出し、デニムを乱雑に脱ぎ捨てる。同じく下着だけになり向かい合う。 「あなたが・・・好きだ」 馨は言った。コマンドではない。黎はとろんとした顔で見つめ返す。プレイ中の黎は、自ら何かを語ろうとはしない。ただ支配されることだけに集中していた。 コマンドは他にもたくさんある。しかし今、それは何ひとつ必要なかった。馨が黎の肩に触れれば力は抜け、押せばゆっくりと仰向けに倒れてゆく。 カーペットの上に倒れた黎の上に馨は跨がった。 「高坏・・・」 いつもとは違う声音で黎は馨を呼んだ。それに応えるように馨は言った。 「馨と・・・」 呼べ、とは言わなかった。が、それがコマンドとなり、黎は答えた。 「かおる・・・」 大柄な身体を覆い被せ、馨は黎にプライベートなキスをした。
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