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「・・・っあ・・・」 自分の低い喘ぎ声が頭に響く。(れい)の身体の上で熱く重い(かおる)の筋肉質の身体が耐えきれないように擦り付けてくる。 下半身同士がぶつかり合って、何年も遠ざかっていた感覚が身体中を支配し始めていた。 「蓮見(はすみ)さん・・・っ・・・」 キスを繰り返しながら馨は黎の胸をまさぐる。おそらく女しか抱いたことがないはずの馨は、黎のごつい身体を愛おしそうに撫でる。 「馨・・・」 頭に響く自分の声がひどく甘くて気恥ずかしいが、止めることも出来ない。馨のグローブのような手が、急くように下着の上から脚の間を揉みしだく。高い声が出ないように唇を噛んで制御しても、勝手に息が唇の隙間から漏れ出す。 「ふ・・・っぅあ・・・」 布と肌の間に馨の指が滑り込んだ。ぬめる先端をつるりと撫でられ、胸がびくんと痙攣する。今までこんなに敏感だったことがあっただろうか。優しい手つきで擦り上げられ、半勃ちだったものに血が集まり固くなりはじめる。 太腿に馨の張り切ったものが当たる。これから始まることを想像すると、背中がぞくぞくする。 男と寝たことなどないというのに。 これがプレイ、そしてカラーの持つ力なのか。 馨の手で下着を取り払われる。そしてかすれた声で「presant」とコマンドをかけられた。 頭の中ではありえない、と思っているのに、拒むことが出来ない。それどころか、その命令に身震いしてしまうほど喜びを感じている。 羞恥は拭えない。 なのに、脚が勝手に開いて、誰にも許したことのない場所を晒してしまう。 馨はその光景に、喉を上下させ、静止した。黎はそのままの体勢でいることが耐えられず、顔を背けた。しかし脚を閉じることは出来ない。 そしてとうとう、馨の口にそこを含まれた瞬間、驚くほど上擦った声が出た。 「んっぁああ・・・っ・・・」 むしゃぶりつかれ、脚が震えた。馨は支える指を駆使しつつ、熱い舌で舐め上げる。口の中にほとんどが飲み込まれ、粘膜と唾液が醸し出す淫猥な音が黎の耳まで聞こえてくる。 (こんなこと・・・できる男なのか・・・) DomとSub。それも黎は久坂に作り替えられた、先天性ではないSubだ。身を守るための契約(claim)を結び、今となってはこの関係を利用する必要すらないかもしれない。 でも、この男は言った。 (あなたが・・・好きです) 一体いつから。ただただ無骨な、一本気な男だったはずなのに。身を呈して黎を守り、警察官でなくなっても黎の側を離れようとしない。 馨は口を手の甲で拭うと、黎の両足を持ち、ぐい、と広げた。そして黎自身ですら知らない場所に、指の先で触れた。 「あ・・・っ・・・」 「嫌だったら言ってください・・・出来るだけ傷つけないようにします」 「っぐ・・・ぅあ・・・」 最初は痛み。 当然だ。そこは、異物が侵入する場所じゃない。違和感と息苦しさ、痛みがまとまってやってくる。 なのにどうだ。 言葉では言い表せない高揚感に、体中の神経がぞくぞくして止まらない。男として、生まれて初めてセックスを経験し女性の身体の中で射精した時が、ある意味人生で感じる快感の最高潮なのだと思っていた。 しかし、比べものにならない。 もしプレイの最中でなかったら、もっと痛みを感じるのかもしれないが、サブスペースに入っているからか、波のように押し寄せる快感の方がずっと強い。 「あっ・・・ぐっ・・・ぅんっ・・・」 息を吸って、吐く。そのたびに中でうごめく馨の指を感じて、声が漏れる。徐々に痛みが弱まり、あるポイントを馨の指先が刺激した。 それは、(いかづち)が落ちたようだった。 「ぅあぁぁっっ」 「・・・は・・・蓮見さん?」 「そ・・・こはっ・・・ぁっ・・・」 「いい・・・ですか・・・?」 「んぅっ・・・あ・・・」 「息を吐いて・・・」 コマンドをかけられる。素直に息を吐くと、少しだけ身体が楽になった。 「俺の指を感じて・・・力を抜いて」 馨の言葉全てがコマンドになる。中が勝手に敏感になり、腰が戦慄(わなな)く。そこが、その場所が、男を狂わせるスイッチだなどと、黎は知る由もなかった。 「ひっ・・・ぁああ・・・っ・・・」 出し入れを繰り返され、黎の身体は痙攣を止められなくなった。そして、直接の刺激を与えなくても、身体が精を吐き出したいと脳にサインを送り出していた。 「あ・・・っぁあ・・・っ・・・は・・・」 「・・・イきそうですか」 必死にうなづくしか出来ず、黎は馨の腕を力強く握った。自分から懇願することは出来なかった。 何故なら、あくまでも支配されたいからだった。馨はそれに気づいたのか、黎の瞳をのぞき込みこう言った。 「cum」 「んぅっ・・・うぁああぁっ」 びくん、と下半身ごと震え、黎は達した。驚くほど勢い良く白濁の液が飛んだ。痙攣が収まっても、まだぼたぼたと滴り落ち続ける。 こんな経験は当然初めてだった。 久坂に操られプレイを強要された時は記憶が飛んでよく覚えていないが、久坂以外の数人の男に組み敷かれた気がする。久坂は楽しそうにそれを見下ろし、黎は凌辱された男たちの顔も覚えていない。 ただ辛いだけだった。 契約を結んでいないのだから当然だ。だからセックスが含まれていない場合でも、合意のないプレイは「レイプ」と同様に分別されるのだ。 達したばかりなのに、身体の熱は収まる様子がなかった。馨の指が身体のどこかに触れる度、甘い痺れが走ってむずがゆい。黎が身体を丸めて快感の波が行き過ぎるのを待っていると、馨が強く腰を掴んだ。そして改めて脚を開かれる。 熱い先端を当てられ、黎は思わず腰を引いた。これ以上進んだらどうなってしまうのか想像もつかない。 「う・・・っ・・・」 馨の低いうめき声と共に、熱く固い馨の中心が黎の入口にめり込んだ。 「うぁっ・・・あ・・・」 圧迫感と肉を裂かれる痛み、そしてそれを凌駕する快感。つい今しがた、たっぷりと吐き出したはずなのに、前にはみるみる血液が集中し始める。息を吐き出したくても気管も肺も機能しようとしない。こんなに息苦しくて今にも死にそうなのに、やめないで欲しいと心が叫ぶ。 「・・・黎・・・さんっ・・・」 切羽詰まった馨の雄臭い声が、黎の名前を呼んだ。苦しさに強く閉じていた瞼を開けると、必死の形相で馨は黎を見下ろしていた。 「馨・・・・・・っ・・・」 この感情がDomとSubという関係性が産みだすものなのかはわからない。 黎が馨に対して部下以上の思いを抱くようになったのは、ビジネス的に契約を結んでからだ。もとより実直で有能な男だったが、契約を結んでからは馨の視線に黎に対する情が混じるようになった。 それが尊敬や尊重の類ではないことはわかっていても、まさかこんなにストレートな愛情のはずがないと思っていた。 人為的に作られた存在(Sub)であっても、支配される快感と喜びを感じてしまった今は、他には何もいらないと思える。 奥深くまで貫かれながら、黎はこの数年、(ランドオブライト)の中で感じていた孤独や苦しさが和らいでゆく心地よさに溺れて行った。
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