11

1/1
前へ
/97ページ
次へ

11

「・・・く・・・っ・・・ぁ・・・」 狭い空間にたちこめる牡の臭い。他に車の停まっていない町外れの小さなコインパーキング。じわじわと窓ガラスが内側から曇ってゆく。 「高坏・・・・・・っ・・・ん・・・」 「蓮見さん・・・俺・・・もう・・・」 「シートを・・・倒せ・・・」 (かおる)(れい)の両脚の間を擦り上げながら、空いた手で後部座席のシートをリクライニングさせる。シートが倒れると、座席は広々とし、しかし大の男が二人で横たわるには若干狭い。がたん、と一気に倒れて、黎は勢い余ってひっくりかえった。 「うわっ」 「すっ、すいませんっ」 あははは、と黎は笑って、ひとり慌てる馨の顔に触れた。 「本当にここでするのか?」 「我慢出来そうにないんです」 黎は子供をあやすように、馨の頬を撫でた。既に切羽詰まった顔をしている馨は、ぐっと近づき黎に甘えるキスをした。 「子供みたいだな」 「子供はこんなことしません」 「・・・確かに」 「もう・・・いいですか」 馨は自分のベルトを緩めた。はちきれんばかりに勃ちあがった自分自身を解放して、馨は黎の膝にひっかかったスラックスと下着をはぎ取った。 「プレイじゃなくても・・・本当に構いませんか」 「・・・まったく・・・」 黎は馨の余裕のない顔を見上げ、小声で言った。 「いつまで様子を伺うつもりだ?こんな姿にしておいて・・・」 「蓮見さん・・・」 「高坏」 耳の側に口を近づけ、黎はささやいた。 「嫌だったら、二回も許したりしない」 「蓮見さんっ・・・っ」 馨は勢いよく黎に覆い被さった。噛みつくようにキスを繰り返す。息が出来なくなって、黎は馨の肩を叩いた。はっとして唇を放し、馨は改めて黎の脚を掴んだ。持ち上げて、膝の裏や太腿の裏にキスをした。 「・・・この・・・体勢は・・・少し恥ずかしいんだが」 脚を持ち上げられたあられもない姿に、黎は馨から顔を背けて言った。 「暗いし・・・ここには俺しかいません」 「・・・っぁ・・・あ・・・」 黎の脚を左右に広げ、馨は赤く充血した黎の中心に口づけした。急いているのに、それは優しく丁寧に、まるで初めての行為のように。 舌で中心を愛撫しつつ、馨の手は無意識にひくつく黎の後孔をほぐし始める。 「・・・高坏・・・っ・・・あ・・・」 「蓮見さんっ・・・」 「あ・・・っぁ・・・んぅ・・・っ」 「好きです・・・蓮見さん・・・っ・・・」 「く・・・っ・・うっ・・・」 熱く昴ぶる馨が肉を割って黎の中に侵入する。自分でも触れられない場所が、意志を持ったように馨に絡みついて離さない。それが気恥ずかしいような、くすぐったいような。 コマンドをかけられたわけでもない。 トランス状態でもない。 なのに黎の身体は馨を受け入れることに喜びを感じていた。 知ってか知らずか、馨は黎の最奥まで、何度も何度も貫いた。そのたびに耐えられず、精液がだらしなく溢れ出してしまう。 プレイしながらのセックスは、脳が痺れてひどく酒に酔った時のような感覚だった。 だが今は、ただ幸福感に包まれている。 「・・・俺もっ・・・お前が・・・っ・・・」 身体を仰け反らせ無意識に口走ってしまった言葉を、黎は他人事のように聞いていた。 狭い車内、身体の痛みで黎は目を覚ました。寝てしまったらしい。しかし後部座席には黎だけがいて、馨はいつのまにか運転席に移動していた。彼は身体を丸めて寝ていた。黎の身体には毛布が掛けられていて、馨は寒さを凌ぐのに身体を丸めるしかなかったようだ。 「高坏・・・」 声を掛けても目を覚ます様子はなかった。足下に脱ぎ捨てられた服を身につけ、一度外に出た。 少し離れたところに民家が数件のみ、パーキングエリアには二人の乗る車一台だけ。 運転席のドアを開けて、黎は馨の身体に毛布を掛けた。 「う・・・ん・・・」 外気の冷たさに気づいて馨が瞼をうっすらと開けた。 「はすみ・・・さん?」 「風邪をひくぞ」 「・・・何時・・・」 「まだ夜中だ。もう少し寝ろ」 「はすみさん・・・」 寝ぼけた馨は黎の首の後ろに腕を回し、軽いキスをした。甘い音をたてて、数回繰り返すと馨は微笑み、再び眠りについた。 黎は馨の前髪を整え、助手席に移動した。寝息をたてる馨の横顔を見ながら、黎は自分も身体を丸め、瞼を閉じた。 潜入捜査員、そしてランドオブライトの盟主として、何不自由ない生活を「強いられた」黎。自力では一生食べることの叶わないであろう高級食材、寝心地のいいマットレス、二十四時間空調の効いた豪華なしつらえの部屋で、いつも誰かがかしづく環境。 今となっては職も失い、家を焼かれ、車の中で寝泊まりしなければならない。明日にはこの車だって潰されてしまうかもしれない状況だ。 なのに、今、黎は満たされた気持ちだった。 危険を省みず黎の側にいようとする馨。大きな身体と、実直な性格。異性愛者にも関わらず、黎を好きだと言って譲らない。 これを絆される、というのだろうか。 黎は傷をたくさん持っている。おそらくそれをすべて明かしたとしても、馨は態度を変えないだろう。 が、出来るなら知られずにいたいと思うのは、もう少しの間、馨とのこの甘い関係を守りたいと思うからだろうか。 無意識に微笑みながら、黎は浅い眠りについた。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

248人が本棚に入れています
本棚に追加