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真北(まきた)さんが逃がしてくれたのか」 「俺も信じられなかった・・・下っ端は見殺しにされると思ってた。それも特別室に入れられてることを思い出してもらえるなんて、思いもよらなかった」 「・・・・・・」 「真北さんも警察の人?」 「いや、違う」 「てっきりそうだと思ってた」 「ああ・・・確かに。真北さんに怪我は?」 「してた・・・と思う。頭から血が出てたし、右目をハンカチで押さえてた・・・馨は真北さんの連絡先は聞いてないの?」 「・・・聞いてない」 「そうなんだ・・・あ、ねえ、盟主ってどうなったんだろう?」 咄嗟に(かおる)は唾を飲み込んだ。 (れい)のことを言うべきか悩むが、馨が警察官だと知っているなら、本当のことを言っても構わないのかもしれない。 「・・・盟主・・・いや、彼は無事だよ」 「知ってるの?」 「・・・一緒に居るんだ」 灯馬は瞬きを繰り返して、え、と小さく呟いた。 「盟主は・・・俺と同じだ。潜入捜査員だ」 「潜入・・・捜査員・・・?!」 「俺も盟主も警察官だった」 「そんな・・・だってあのグレア・・・とんでもない強さで・・・」 「彼のグレアは本物だ。どうして盟主の位置にいたのかは・・・深い理由(わけ)があるが」 「わかるよ・・・新興宗教を隠れみのにした、ヤバい組織だもんね」 「灯馬・・・・・・」 「俺も入ってすぐ間違いだったと気づいた。バレたら大変だから黙ってたけど」 灯馬は馨にも、まるでランドオブライトに心酔しているように見せていた。馨の他にもそういう人間がいたのかもしれない。 もしくは、馨が警察関係者だとわかってそう言ったのかもしれないが。 「馨・・・あのね、俺、謝りたくて連絡したんだ」 「謝る?」 「特別室で俺・・・ひどいこと言った。断片的にしか覚えていないんだけど・・・何だか止められなくなったのは覚えてる」 上目遣いで灯馬は馨の顔色を伺っていた。馨は微笑んで答えた。 「非常事態だったし、あの時の灯馬は何か飲まされていたと思う。灯馬は悪くない」 「・・・でも」 「気を失う直前、正気に戻ったのを覚えてるか?」 「ううん、よく覚えてない・・・」 「灯馬、「俺じゃない、違う」って言ったんだ。それで気づけた。むしろ助けて貰ったくらいだ」 「本当に・・・?」 「ああ。だから気にするな」 「・・・良かった」 灯馬の目にはうっすら涙が滲んでいた。あの時の言葉をずっと気にしていたらしい。 前嶋に操られていたのは明らかだが、ああいう場合に口をつく言葉は、実は本音だったりすることが多い。 灯馬は幾分安心した表情で馨に尋ねた。 「馨は、今どうしてるの」 「今?」 「さっき警察官だった、って言ったよね」 「・・・ああ」 「今は一般人?」 「そうだな。灯馬、お前は?」 「え?」 「家族のところに帰らなくていいのか」 「俺はランドオブライトに入った時点で家族と縁が切れてるから」 「・・・・・・」 「真北さんもそれを知っているから、馨の連絡先を教えてくれたんだと思うんだ」 おそらくそれは違う。 真北ほどの人間なら、ランドオブライトを壊滅させた後、馨と黎が警察官に戻れない可能性があることも想像出来るはずだ。一般人になった馨に助けを求めたところで、どうにもならないことも。 真北は何を考えているのか。 黎がまだ前嶋の逮捕を諦めていないのと同じく、真北もまた、前嶋が死ぬまで諦めていないのかもしれない。 「灯馬・・・聞いてくれ。俺と元盟主は、今回の事故の首謀者を探してる」 灯馬は黙って、馨の目を見つめ返した。馨は言葉を選んで続けた。 「多分まだ生きていて、元盟主の命を狙ってる。もう警官じゃないが、知り合いの関係者と連絡を取り合って、逮捕に持って行くつもりだ」 馨はテーブルに両肘をついて、顔を近づけた。 「すごく危険なんだ。だから・・・電話をくれて嬉しいが・・・」 「・・・わかってるよ。ごめん、俺の方こそ勝手に」 「勝手なんかじゃない。連絡をくれて嬉しかった」 「うん、俺も会えて嬉しかった。・・・時々は、連絡しても構わないかな?」 「もちろん」 「あ・・・そうだ、馨、盟主・・・今は違うね、彼は、どんな人なの?」 「どんな?」 「俺、一回しか会ったことないんだ。馨の先輩なんでしょ?」 「・・・強い人だ。優秀な警察官だよ」 「そうなんだ・・・今度、落ち着いたら改めて会ってみたいな」 「ああ、伝えておくよ」 灯馬は少し寂しそうに笑った。そして、じゃあ、と言って立ち上がった。 「灯馬・・・ごめんな」 「謝らないでよ、俺は大丈夫」 「これからどこに行くんだ?」 「病院で知り合った、虐待被害者が駆け込む施設で働いている人に頼るつもり。そこに入れるのは子供だけなんだけど、働かせてくれるって言うから・・・いい人なんだ」 「そうか」 「また電話するね。今日はありがとう」 馨は泣きそうな顔で無理矢理笑う灯馬に、何もしてやれない自分を恥じた。 同時になんとしても前嶋(まえじま)望未(のぞみ)を見つけて、警察に突き出す、と心に決めた。
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