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「っあ・・・んぅ・・・・・っ」 一気に事を進めるのが惜しくて、(かおる)は自分の下半身を(れい)のそこに擦り付けた。黎のスラックスの布地と馨のデニム地が触れ合って衣擦れの音がする。靴は適当に脱ぎ散らかされていた。 「黎・・・」 馨は黎の耳元で囁いた。弾かれたように黎は目を見開いた。Subに切り替わったのだ。直後、一転してすがるような瞳で黎は馨を見上げた。 「高坏・・・・・・」 kiss、とコマンドをかけると、黎は馨の唇に噛みついた。 「痛っ・・・」 痛みに思わず顔を引いても、黎は唇にねだるように着いてくる。血が滲んでも構わずに、黎はキスを繰り返す。それがコマンドだからだ。 「Stop!」 思わず強い口調でコマンドをかけた。びくん、と肩を震わせて、黎はキスをやめた。改めてDomのコマンドの強さに驚く。馨はあわてて黎の頭ごと胸に抱き寄せた。 「違う・・・怒ってるんじゃない・・・怖がらないで」 黎は何も言わない。馨の腕に抱かれるままになっていた。脱力して馨に全てを任せている。 「黎・・・」 馨はこの時だけの呼び名で呼んだ。うっとりと馨を見上げる黎の瞳の色も、この時だけのもの。 「・・・・・・strip」 コマンドを受けた黎はベッドを降り、驚くほどなめらかに残った服を脱ぎ始めた。馨の目を見つめたまま、ワイシャツをするりと腕から抜いた。ベルトはしていなかった。自分でスラックスのファスナーを下げる。中の濃いブルーの下着は既に濡れていて、ファスナーの隙間から押し出されている。 「下着も・・・」 それもコマンドになった。 黎は素直に下着を脱いだ。全裸になった黎は、馨の前に立った。 「ここに・・・」 馨は両腕を開いて、迎え入れるポーズをした。馨は決まりきったコマンドをかけることが苦手だった。命令しなくても、言葉を発すればコマンドになる。 全裸の黎を受け止め、背中を優しくさすると、それはそのまま「Good」の意味になる。 「・・・present」 黎を横たわらせ、馨はコマンドをかけた。 黎は少しだけ躊躇した。それは拒絶ではなく羞恥から来るもの。初めてプレイをした時も同じだった。これは黎の性質なのかもしれない。 「大丈夫、任せて」 黎の身体から少し力が抜ける。以前と同じく顔を背けて、ゆっくりと黎は足を左右に広げた。そこは赤く充血し迎え入れる準備をしているように馨には見えた。 過去に、馨も黎も女性と身体の関係を持った経験がある。しかしこの歪な関係を持ってから、明らかにどちらの身体にも変化が訪れていた。 馨の指が黎の中にめり込む。迷いなく前立腺を刺激すると、熱い息を吐いて黎が仰け反る。男の身体にそんな敏感なスイッチがあることを馨はこれまで知らなかった。しかし初めてプレイをした時から、馨は誰に教わるでもなく黎が反応する場所を知っていた。 「ふ・・・っぁあ・・・っ・・・」 「もっと・・・声が聞きたい」 「んっぁあ・・・っぅ・・・あぁ・・・っ」 「このまま・・・イって・・・」 「くっ・・・ぅああぁ・・・んっ・・・」 「・・・cum」 「ぁああぁっ」 ひときわ大きな痙攣を起こし、黎は達した。小さく何度も震え、しかし前から精液が溢れ出すことはなかった。張りつめたそこは苦しげに天を仰いでいる。 はあ、はあ、と小刻みに息を吐き出す黎。無意識なのか何かを掴もうと、腕を持ち上げて宙をさまよわせている。馨はその手を取り、視線を合わせた。 「・・・高坏・・・っ・・・」 黎は馨の腕にすがりついた。言葉に出来ない黎の要求を、その視線だけで馨は気づく。それは同時に馨の望みでもある。 馨は黎の膝を持ち上げ、肩に担ぎ上げた。まだ痙攣を続けている黎のそこを手で包み込み、反対の手で腰を引き寄せる。互いの一番血液が集中している場所同士が触れあう甘美な感覚に、馨は無意識に低い声を出していた。 「うっ・・・」 「・・・っ・・・はぁ・・・っん・・・」 「熱い・・・っ・・・中が・・・溶けそうです・・・」 「たかつきっ・・・んぁあ・・・」 腰を動かさなくても、馨はすぐに果ててしまいそうだった。黎の中はまるで別の生き物のようにねとりと絡みつく。眼下には潤んだ瞳で見上げる黎。 馨は両手で黎の腰を持ち、一度深く穿った。 「ぐっ・・・んぅっ」 衝撃に黎がうめいた。 馨は一度ぬるりと抜くと、再び最も奥まで貫いた。 「ひあっ・・・あぁあっ」 「あなたの中・・・気持ちいいっ・・・」 「ぁっ・・・んあ・・・んっ・・・」 「黎・・・黎っ・・・ああ・・・」 こんなのプレイじゃない、と馨は心の中で呟いた。元々はDom同士だった。そして警察官であり、同性。尊敬してやまない、ベテランの潜入捜査員。 どうして今、自分の下に黎がいるのだろう。 肌を火照らせ、壊れたように精を吐き出し、自分の腕にしがみつく蓮見黎。 これが愛するもの同士の交流(セックス)でなければ何だというのだろう。 明日になればまた、前嶋を探す日々に戻らなくてはならない。わかっているのに、この舌が痺れるような甘さをずっと味わっていたい。 この世界でふたりだけでいられたら、どんなに幸せか。 馨は黎を繰り返し貫いた。
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