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「あそこは駆け込み寺なんかじゃない」
「・・・・・・そうですね」
「Subの子供たちを集め、洗脳している。あれはきっと・・・」
「きっと・・・なんですか」
「考えたくないが・・・あれは、ランドオブライトへ送る人材を育ててる。・・・農場だ」
「そんな・・・」
「じゃなきゃ、Domのプレイの相手をする為だけのSubを、あれほどたくさん集められる訳がない。世の中のSubの中には誰にもダイナミクスを知られずに生きていきたい者がいる」
現在の日本では、Domである人間が何事においても優位に立つことのできる社会のシステムが確立している。人口の二割ほどと言われるDomとSubでは、一生隠し通すのはSubであり、逆にDomの多くは自らのダイナミクスを公表し利用するのが常だ。
ランドオブライトには、世の中を動かすDomの相手をするためだけに、パートナーのいないSubが集められている。馨の記憶では少年少女が半分以上、最年長でも二十歳そこそこだ。そんなに都合よく子供たちばかり勝手に集まって来るはずがなかった。
黎は言った。
「ランドオブライトに入る頃には、日常的にどんなDomにも従順になる体質になっているだろう。おそらくどんなことをされても、簡単にサブスペースに入るように教育されているんだろう」
「そんなことが・・・可能なんですか」
「システムはわからんが、そうとしか思えない。プレイルームに囲われていたSubたちの様子がおかしかったのもうなづける」
「・・・・・・」
「岬灯馬はいなかったな」
「ええ。それが気がかりです」
車に乗り込み、隣り合って腰を下ろす。馨は前を見たまま言った。
「黎さん・・・この施設の所長というのは・・・どんな人物だと思いますか」
「かなりイカれてる。そして前嶋のバックだ」
「そんなところに灯馬が・・・」
「計画されていたのかもしれないな」
「計画?!」
「本当はあの爆発で、ほとんどの人間が死ぬはずだった。真北が逃がしたことを知って、手を回したんだろう」
「じゃあ、他に脱出した人たちも・・・」
「あの中か・・・もしくは別の場所にいるだろうな。思っていたよりあの施設は性質が悪い。ここまでとは俺も気づかなかった」
想像していたよりもずっと問題の規模が大きくなっている。前嶋の手がかりはないのに、彼の背後の問題ばかりがフューチャーされている。良いニュースは今のところ無かった。
馨は言った。
「灯馬に電話をしてみます」
「繋がるのか」
「わかりません。あの携帯をまだ灯馬が持っていれば・・・」
馨は携帯を取り出し、着信履歴を遡った。タップする直前、馨は黎と視線を交差させた。
これがきっかけになる。そんな直感に従って馨はリダイヤルを押した。
「・・・もしもし・・・?」
呼び出し音が五回。電話の向こう側からは、明らかに怯えた様子の灯馬の小さな声が聞こえた。
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