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「・・・もしもし・・・?」
「灯馬?」
「か・・・馨?」
「よかった、繋がって。今話せるか?」
「馨、あの、それがあんまり話せないんだ」
「灯馬、大丈夫なのか、今日施設に行ったけど会えなかった」
「えっ?」
「お前が働くって言ってた施設だ。お前本当にあそこにいるのか?」
「馨・・・もう、話せない」
「待て、灯馬、様子がおかしいぞ」
「もう切らないとまずいんだ」
「お前のいる場所は危険なんだ、そこを出ないと」
「・・・・・・わかってる・・・もうだめだ、切るね」
「灯馬!」
「馨、真北さんに連絡して」
「え?!」
「じゃあね。話せてよかった」
「灯馬!!」
電話は一方的に切れた。その後すぐにかけ直したが、「現在使われておりません」のアナウンスが繰り返すばかりで二度と繋がることはなかった。携帯電話を黙って見つめる馨の肩を、黎がぽんと叩いた。
「大丈夫か」
「・・・様子がおかしいです。真北さんに・・・連絡してくれと言っていました」
「真北と繋がっているのか」
「・・・わかりませんが、切羽詰まった様子でした」
「しかし連絡と言っても、おそらく真北の携帯は使い捨てだ」
「黎さん、やっぱり方法はあれしか」
「・・・何だ?」
「直接語りかければ真北さんならきっと・・・」
「・・・・・・・」
「あれは・・・身体的に負担があるとか、そういう方法なんですか?」
「いや、そんなことはない」
「非常事態です。お願いできませんか」
「・・・わかった」
黎は大きく息を吐き出した。そして目を瞑り、下を向いた。当然馨には何も聞こえない。集中している黎を邪魔したくなかった。三十秒ほど瞼を閉じていた黎がゆっくり目を開けると、もう一度深呼吸をした。
「どうですか?」
「伝わったかどうかはわからん」
「え?」
「・・・え?」
きょとんとした顔で黎は小首を傾げた。拍子抜けして馨も同時に首を傾げた。
「わからない・・・んですか?」
「何がだ?」
「俺の返事も・・・聞こえてなかったんですか?」
「?お前の声は聞こえたぞ?」
「この間、真北さんに通じたんじゃ・・・」
「あれは偶然だ」
「ええっ」
「言ってなかったか」
「聞いてないですよ・・・」
「元々俺は一方的に言葉を発してる。それをお前が傍受できただけだ」
「本当ですか?俺にはあんなにはっきり聞こえるのに・・・」
「お前だからだろう」
やけにあっさりと黎は言った。馨が面食らっていると、黎は携帯電話を取り出しじっと見つめた。
「・・・すぐには無理そうだな」
「き・・・きっと伝わってます」
「だといいがな」
「黎さん」
「うん?」
「・・・・・・何でもないです」
「・・・馨?」
「忘れてください」
混乱した頭で馨は車のエンジンキーを回した。
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