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「コーヒーを淹れた。飲むか?」
「・・・ありがとうございます」
「浮かない顔だな」
「・・・・・・」
ホテルに備え付けのインスタントコーヒーを、白いカップに淹れ、黎は馨に差し出した。ベッドに腰を下ろしたまま馨はそれを受け取った。
「何が引っかかってる?」
「特には。真北さんの連絡待ちです」
「・・・・・・言いたいことがあるならはっきり言え」
「・・・・・・」
「言わないならいい」
「黎さん」
黎は表情を変えず、真顔で馨を見つめ返した。
「俺に合わせてくれているんですか」
「・・・またつまらんことを考えてるな」
「つまらないですか」
「お前の考えていることはだいたいわかる」
「だから、頭で会話できると嘘を?」
「・・・・・・今度はそっちか。伝わってると言っただろう」
「証拠はありません」
「そりゃあそうだ。どうやって証明する?」
黎は海外ドラマの登場人物のように両手を広げて首をすくめた。馨はすっくと立ち上がり、黎の手からコーヒーカップを取り上げた。そしてすぐ側の壁に追い込み、黎の顔の脇に両手をついた。
「俺の独りよがりなら、そうだと言ってください」
「・・・どうしてそうなる」
「俺はあなたの特別になりたい」
「とっくに特別だ」
「それは俺たちが同じ場所に潜入していたからでしょう」
「もちろんそうだ。じゃなきゃ、今ここにいない」
「警察官だった」
「そうだ」
「では今、俺たちの関係性はなんです?」
「・・・・・・仲間だ」
「この捜査が終わったら?」
「・・・・・・」
「きっとあなたは俺の前からいなくなる」
「何を根拠に」
「あなたは生まれながらの警察官だ。きっとあなたは、深いところでは俺を部下としか思っていない。事が片づけば、俺との関係は薄れる」
「・・・生まれながら?」
「捜査しているときのあなたは水を得た魚のようです。そんなあなたを尊敬していますが・・・」
「お前は思い違いをしてる」
「・・・・・・」
「生まれながらの警察官はお前の方だ」
黎は馨から視線をはずした。グレアではなく、腕力で馨の身体を押しのけて黎は言った。
「少し出てくる。お前も頭を冷やせ」
「黎さん!」
オートロックのドアがゆっくりと元に戻っていく。馨はひとり、ベッドの上で大きなため息を吐いた。
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