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 携帯電話が鳴ったのは、(れい)がホテルを出て十五分ほど経った時だった。非通知。黎ではなかった。灯馬(とうま)は数時間前に離したばかり。それでも(かおる)は電話に出た。 「・・・もしもし」 「高月か」  聞き覚えのある声。 「ま・・・きたさん?」 「・・・久しぶりだな」 「今、どこにいるんです?いろいろ聞きたいことが・・・」 「悪いがあまり時間がない。蓮見さんは一緒か」 「あ・・・あの、今は・・・」  馨が言葉に詰まると、それ以上真北は言及することなく話を進めた。 「高月。よく聞いてくれ。お前たち、どこまで真相に近づいてる?」 「真相・・・?」 「少しでも早く手を引くんだ」 「・・・手を引く?」 「蓮見さんも高月も今は警察官じゃないだろう」 「まだパイプがあります」 「パイプがあろうとなかろうと、とにかく危険なんだ。俺も・・・そろそろどうにか逃げ出さなければと思っている」 「そうですよ、俺たちのことよりまず真北さんが無事に逃げ出さないと・・・」 「高月」 「は、はい?」  話を途中で切り上げさせた真北の声は鋭かった。思わず背筋が伸びる。 「蓮見さんの側を離れるな。あの人をひとりにするな」 「真北さん・・・」 「近いうちにまた連絡する」 「あ、待って、待ってください!」 「蓮見さんを頼む」 「真北さん!」  電話はまた一方的に切れた。馨は数秒考えて、すぐに黎の番号にかけた。数回の呼び出し音のあと、もしもし、と黎の声がした。 「高坏です、あの、黎さん、今どこですかっ」 「・・・・・・今、戻るところだ」 「あの、俺・・・さっき言い過ぎました・・・迎えに行きます、どのあたりですか」 「一人で戻れる。・・・何を焦ってるんだ?」 「真北さんから電話があったんです」 「真北から?何だって?」 「それは」  言い掛けた馨の声は、電話口の衝撃音でかき消された。携帯が地面に落ちたと思われた。 「黎さん?!どうしました?!黎さん!!」  黎の返事はない。代わりに人の足音らしきものがどたどたと聞こえてくる。そして数秒後、ぷつりと電話は切れた。馨は電話を持ったまま部屋を飛び出した。エレベーターのボタンを押したがのんびりとランプが移動するのに耐えられず、非常階段を駆け下りた。  ロビーを駆け抜け、自動ドアの半分も開かないうちに身体を差し込み、馨は外に飛び出した。ホテルの前は車通りの多い道だが、夜も更け、静まりかえっていた。左右を見渡してもタクシー一台走っていない。そもそも黎がどこに居るのかもわからない。 「黎さん・・・っ・・・」  馨は携帯を取り出しもう一度黎の番号をタップしたが、呼び出し音が鳴るだけで一向に出る様子はない。  その時。 「・・・い、おーい、タカツキ!」  黎ではない。しかしどこかで聞いたような。ホテルの前の道路を挟んで向こう側で、誰かが呼んでいる。 「タカツキ、おい、こっちだ、助けてくれ!」  関雅彦。どうしてあの男が。それも、気を失ったらしい黎を肩に担いで、反対の手を馨に向かって振っている。道路を走って渡り近づくと、黎は腹に怪我をしていた。服が赤黒く血で汚れている。 「関さん!れ・・・蓮見さんは、どうしたんです、この怪我は?!」 「俺も知らねえよ!会いたいと言われたから行ってみたら、腹から血を流して倒れてたんだよ!」 「び・・・病院に行かないと!」 「いや、病院はまずい。お前ら、前嶋を追ってるんじゃなかったのか」 「は、はい、そうです」 「これが前嶋の仕業なら、とっくに病院にも手を回されてる。どこに行っても同じだ。俺がなんとかしてやる」 「手を回す・・・ですって?」 「前嶋を舐めるな、大袈裟じゃねえぞ。それよりこいつをなんとかするほうが先だ!」  関は叫んだ。馨は勢いに押され、関の反対側に回り込み黎を支えた。黎の首筋は青白く、触れた肌はひんやりと冷たかった。  馨は独りよがりな思いを彼にぶつけたのを激しく後悔した。
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