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「思ったより軽傷だ」 「刺されたんですか」 「らしいな。でもそう深くない。こいつは黙って刺されるようなタマじゃねえ・・・とっさに避けたんだろうな」 「・・・・・・前嶋でしょうか」 「本人じゃねえだろうが、息がかかってる奴の仕業だろう」 「・・・関さん」  黎は眠っていた。一度目を覚ましたが、鎮痛剤を飲ませて眠らせた。馨が深夜営業のドラッグストアで買ってきたガーゼや包帯を使って手際よく黎の傷の手当をした関に、馨は尋ねた。 「医療に明るいんですね」 「・・・俺は警察をやめてから、警察医として働いている」 「警察医・・・!」 「外科だ」 「だから・・・手当が・・・」 「警察医だから密かに情報も入ってくる。だから捜査を続けられてるんだ」 「すみません、知らなくて」 「言ってねえから当然だ。こいつしか知らねえことだ」  関はふふん、と鼻で笑い馨が用意したペットボトルの水をぐいと煽った。関の喉仏が上下するのを見ながら、馨は言った。 「・・・蓮見さんは命を狙われてるんでしょうか」 それにはっきりとは答えず、関は言った。 「お前ら、なんか目立った動きしてねえか?」 「目立った・・・?・・・あ、今日、前嶋のバックじゃないかと思われる施設には行きましたが・・・」 「きらめきか」 「そうです。ご存知ですか」 「ご存知もなにも、ありゃ前嶋の別荘みたいなもんだ。行ったんなら、間違いなくそこの奴らの仕業だな」 「所長には会っていませんが」 「所長がわざわざ出張ってくるわけねえだろ。職員は一人残らず、ランドオブライトの関係者だ」 「職員も・・・?!」  黎の予想は当たっていた。職員全員が関係者なら当然尾行もされるだろう。そんな時にひとりで外に出た黎が狙われるのも当然だ。 「に、しても、こいつのグレアなら、たいがいの奴はひと睨みでぶっ飛ばされるはずなんだがな・・・なんで刺されるまで近づかせたもんだか・・・」  そこで馨は気づいた。  黎は今Subだ。馨の強力なグレアを引き出すため、自分がSubでいることを選んだ。黎を襲った人間がDomなら、この顛末もうなづける。 「・・・俺のせいです」 「せい、ってなんだ」  馨は身体の関係があることは伏せ、黎がSubでいることを選んだ理由を告げた。 「なるほどな。こいつらしい理由だ」 「でもそのせいで蓮見さんを危険に晒してしまいました・・・」 「多分こいつはそんなこと気にしねえよ。目を覚ましたところで、つらっと「たいしたことない」と言うだろうな」 「・・・・・・」 「まあ、確かにお前が側に居なきゃ、その作戦も功を奏しねえ。・・・Domで居た方がいいんじゃないのか」 「・・・かもしれません」 「これから、監視の目はもっと強くなる。こいつがSubで居続けるなら、二十四時間お前が側にいなきゃなんねえぞ。それは可能なのか?」 「・・・・・・」  奇しくもついさっき、真北に同じ事を言われた。しかし真北のことを関に話すのは違うような気がした。 「まあ、目を覚ましたらよく話し合え。タカツキの一存じゃ決められないだろ?」 「はい」 「もうお前らの居場所は特定されてるってことだ。よく考えろ」 「・・・わかりました」  さてと、と関は立ち上がり、脱ぎ捨てて椅子の上でひっくり返っていたジャケットを手に取った。 「行くんですか」 「こいつが寝てるんじゃ、ここにいたって仕方ない」 「関さんの捜査は・・・関さんは大丈夫ですか」 「・・・・・・俺か?」 関はにかっと笑い、親指を立てた。 「俺ぁこの件についてはかなりのベテランよ。着々と真相に近づいてる。お前たちとは若干路線が違うがな」 馨は前回、はぐらかされたことを改めて尋ねてみた。 「俺たちは前嶋を逮捕に持って行くつもりで動いていますが・・・関さんの目的は何なんです?」 「・・・・・・」 「逮捕ではありませんよね」 「俺は警察官じゃねえからな。まあ・・・簡単な言葉で言えば、けりをつけるってことだ」 「それは・・・」 「俺のことはいいから、そいつを頼むぞ」 「関さん!」 関はまたにんまりと笑い、ベッドで眠る黎を一瞥してから部屋を出て行った。
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