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 その晩を境に黎はDomに戻り、Subへの切り替えは馨の一存に任されることになった。翌日もう一度、虐待児童受け入れ施設「きらめき」に出向くと、たった一晩でそこは「事情により閉鎖されました」という張り紙がされていた。  その後、ランドオブライトに関わると思われる場所を訪ねて回ったが、まるで口裏を合わせたように一斉に門戸を閉じ、馨と黎の訪問を拒んだ。  車に戻った二人は、落胆のため息を吐き出しながらドアを閉めた。 「なんだか・・・世界中から締め出しを食らったみたいな気持ちです」  馨がぼそりとつぶやいた。 「こんなのは世界じゃない。俺たちがいるのが正しい「世界」だぞ。間違えるな」 「・・・すみません」 「それにこれは、締め出しじゃない。次の策だ」 「策?」 「俺たちの場所を確定したなら、さっさと次の追手を寄越すと思ったが・・・」 黎は言葉を切り、ひときわ険しい顔をした。 「多分、あいつは俺たちを自分の腕の中に引き込むつもりだ」 「罠・・・ですか」 黎は黙ってうなづいた。 「真北は手を引けと言ったんだな」 「ええ」 「あいつは多分向こうの懐に入ってる。その真北がそう伝えてきたということは、そろそろ最終段階だろう。前嶋は自分がもっとも自由に動ける場所で俺たちを待っている」  しばらくの間、重たい空気が二人を包んだ。このまま黙っていれば、いずれ前嶋望未は黎を殺しにやってくる。しかしその明らかな理由を馨は知らない。馨は、黎が自ら前嶋の罠に飛び込んでいく気だと考えているのが分かった。 「前嶋が黎さんに執着する理由は・・・知っているんですか」 「・・・・・・いや、俺は知らない」 黎はつと、馨と視線を交わした。何かを隠しているような様子はない。理由を知らないのに命を狙われるなど理不尽でしかないのに、この男は全くその足を止めようとしない。  その時、馨はふと思った。関係があるのかどうかわからない。でも直感が、今聞くべきだと言っている。 「黎さん・・・聞きたいことがあるんですが」 「何だ」 「あなたの出生が前嶋に似ているとおっしゃっていましたが、それを伺えませんか」 「・・・それとこのことが何の関係がある?」 「・・・・・・」 「直感か」 「・・・そう、です」 「・・・そうか」  黎はシートを軽くリクライニングすると、低い声で話し始めた。
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