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「馨、起きて、馨」  灯馬の小さな声で馨は目を覚ました。ベッドを貸す、と言われたのを断り、椅子に座ったまま仮眠を取っていた。薄暗い中、見上げる灯馬の顔に焦りが見えた。 「どうした」 「館内が騒がしいんだ。多分馨を探してる」  確かにドアの外で行き交う足音が聞こえてくる。腕時計を見るとまだ六時前。ようやく明るくなってきたところだ。  馨は体勢を建て直し、立ち上がった。 「匿ってもらって感謝してる。行くよ」 「行くってどこに?」 「・・・元盟主がおそらくこの中に捕らわれてる」 「え・・・・・・?」 「ここに来る山中で襲われて、連れて行かれた」 「盟主が?!」 「久坂は彼を殺そうとしている」 「ど、どうして・・・?」 「それはわからない。危険なことだけはわかっている」 「でも、ひとりで立ち向かう気?今、この中の人間が総出で馨を探してるのに!」 「・・・・・・」 「ねえ、そこまでする必要ってなに?確かに同じ警察官かもしれないけど、馨ひとりがそんな危険を犯すなんて・・・」 「ひとりじゃない。黎さん・・・盟主も危険な目に合っているんだ。いざとなったら動ける方が行動を起こすと約束している」  灯馬は黙った。そして急に馨の袖口をぐっと掴んだ。 「灯馬?」 「・・・・・・れい、って言うんだ、盟主の名前」  馨ははっとした。灯馬は悲しげな瞳で馨を見上げている。その想いに気づきつつも、ここまで曖昧にして来た。  灯馬からすれば、同じ元警察官というだけで「ランドオブライト」の盟主だった黎を、馨が命がけで助け出す理由なんて思いつきもしないはずだ。   「馨は・・・盟主とどういう関係?・・・・・・プレイとか、するの?」 「え・・・っ・・・」 「・・・・・・やっぱりそうなんだ」 「と、灯馬・・・・・・」  瞬時に誤魔化すことが出来ず馨はうろたえた。紆余曲折を経て正式なパートナーとなれた馨と黎。しかしプレイをしたのはたった一度だけ。そんな経緯がすべて灯馬に見透かされた気がして、いたたまれなかった。 「そんな気がしてた・・・・・・付き合ってるの?」 「お、俺たちは、その・・・」 「・・・・・・わかった」  ぱっ、と灯馬は馨の袖口から手を離した。無理矢理笑顔を作って、灯馬は言った。 「引き留めるのは・・・無理だね」 「灯馬・・・・・・」 「俺は・・・馨に無事でいてほしいだけなんだ。何も・・・出来ないから」 「匿ってくれたじゃないか。館内の案内図だって教え・・・」 「馨」  袖を離した灯馬の手は、直接馨の両手を掴んだ。思いも寄らない力で下に引っ張られ、バランスを崩した馨は、灯馬に唇を塞がれた。  唇が離れ、灯馬は今にも泣き出しそうな顔で囁いた。 「・・・れいさんを見つけられるように祈ってる」 「灯馬・・・・・・」  ランドオブライトを出てから、電話を寄越してきた灯馬。頼るためと言うよりも、声が聞きたい、そんな雰囲気だった。 「無事で・・・また会えるよね」 「灯馬!」  馨は灯馬の肩を掴んだ。ランドオブライトで決めたことを、今告げるべきだと思った。 「お前も一緒に行こう!黎さんのいる場所を見つけたら、必ず迎えに来る」 「馨・・・・・・」 「ランドオブライトでは救えなかった・・・今度こそ一緒に行こう」 「・・・ここを出ても、俺には帰るところがないよ」 「それでもだ!ここから出るんだ」 「・・・・・・ほら、もう行って。昨日行ったとおりに進めば大丈夫だから」 「・・・・・・」 「馨の気持ちはすごく嬉しい。気遣ってくれて、ありがとう」  馨は何も言えなかった。言葉の代わりに馨は灯馬を抱き寄せた。身体を堅くしていた灯馬は、そっと馨の胸に頭を預けた。  前嶋望未の企みにより、多くの被害者が出た。 この岬灯馬も同じ。そして行方の知れない黎もまた被害者のひとり。  馨は灯馬を抱きしめた腕に力を込めた。
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