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「・・・kneel」  うっとりとした表情で望未(のぞみ)はぺたんと床の上に座り込んだ。充血した瞳で晴臣(はるおみ)を見上げ、次のコマンドを待つ。しかし晴臣は「good」の言葉の代わりに髪を優しく撫でるだけで何も言わない。  しびれを切らして見上げるも、晴臣は理性的な表情を崩さない。望未は唇を噛みしめ、強い視線で晴臣を促した。その視線の強さに晴臣はいたしかたなくコマンドを続けた。 「stay」  晴臣は無表情に手を伸ばし、顎を掴んだ。顔と顔を近づけ、晴臣は望未の唇を覆った。気持ちよさそうに瞼を閉じ、望未はそれを受け入れた。舌同士が絡み合い、湿った音をたてる。「stay」をかけられた望未は動けないまま、次の指示を待っている。  今日、黎が眠るベッドサイドで、望未はプレイをしたいと言い出したのだ。晴臣はちらりと天蓋の奥で眠る黎を盗み見た。どうか目を覚まさないでくれ、と心で呟く。  晴臣の血に組み込まれたDomの習性が、望んだ関係ではなくともSubを服従させたい、という欲求を沸き上がらせる。舌を絡ませながら、望未の髪ごと後頭部を強めに掴む。唇が離れた隙に「roll」とコマンドを掛けると、望未は嬉しそうにシャツの裾をめくりあげながら、その場に仰向けになった。  望未の身体を膝で跨ぎ、晴臣はその胸を手のひらで押さえた。上下する胸は熱く、声こそ出さないが、望未はもっと強く支配されることを期待しているようだった。晴臣は感情の抜け落ちた顔で、望未の平らな胸を撫でた。望未は喘ぎ声を出しながら軽く胸を反らせた。これから行われることに期待して恍惚としている。  晴臣は背後に気をやりつつ、自らのネクタイを緩めた。仰向けになった望未の下半身は、少女のような顔とは不釣り合いに膨らんでいる。晴臣は乱暴な手つきで望未の黒のデニムパンツを引き下ろした。 「・・・っあぁっ・・・ぁんっ・・・」  冷たい床の上、晴臣のいきり立ったものに突き上げられる度、望未は歓喜の声を上げた。まるでその声で黎が目覚めればいい、とでも言うように。 「く・・・っ・・・」  気持ちとは裏腹に、晴臣の身体は望未を貫くのを止められなかった。肉を割いて擦る度に、壁は生き物のように晴臣にまとわりつく。声を出さないように口をしっかりと結んでも、その甘美な快感にどうしても漏れてしまう。  Domである身体中の細胞が、拒絶する心に蓋をする。背中の黎を気にしながら晴臣は望未の身体の中にたっぷりと精を吐き出した。  激しく交じり合った後、望未は気を失った。これはいつものことで、彼の体質と言えた。バッドトリップではない。彼を寝室に運ぶ職員が迎えに来る。脱ぎ散らかした服をかき集め、華奢な裸体をシーツでくるんで抱き上げると、職員は無言で部屋を出て行った。  眠る黎と晴臣だけになった。晴臣は乱れた髪と服装を整え、落ちたネクタイを拾い上げた。結ぼうとして、ふとベッドが軋んだ気がして手を止めた。 「・・・え・・・っ・・・」  思わず声が出た。ベッドの上で、肩肘を立てて苦しそうに上半身を起こしている黎。 「・・・真北・・・」  あわてて晴臣はベッドサイドに寄った。しっかりと目を覚ましたのは二度目だ。望未の手首を掴んだあの日に、彼の命令で鎮静剤をさらに投与した。覚醒にはまだ少し時間が必要なはずだった。 「盟主!」 「手を・・・」  晴臣は黎の背中を支えつつ、反対の手で黎の手を握った。黎の手に急激に強く握り返され、晴臣ははっとした。   「・・・真北・・・・・・本当のことを言え・・・っ」 「え・・・っ・・・」 「ここは・・・どこだ?」  黎は晴臣の手を引き寄せ、鋭い眼光で睨みつけた。顔色は青く、まだ本調子ではないことは明白だが、その強い視線に晴臣は喉を上下させた。 「ランドオブライトじゃないだろう・・・俺を・・・騙せると思うな・・・っ」 「盟主・・・」 「どこなんだ、ここは・・・っ」  追加投与した鎮静剤には、記憶を操作する薬剤が含まれていた。一回目、そして二回目の投与量からしても、黎の記憶は曖昧になっているはずだった。しかし一瞬目を覚まし、望未を捕え「前嶋」と言った黎。  隠し通すことは無理だ。晴臣は悟った。 「蓮見(はすみ)さん・・・」  睨みつける黎の上半身を起こさせてから、晴臣は改めて彼のベッドの端に腰を下ろした。依然険しい顔をしている黎の顔を見つめ、晴臣はひとつ息を吸い込んでから、大きく吐き出した。 「全て正直にお話します。信じていただけますか」 「・・・・・・内容による」 「・・・かしこまりました」  晴臣は意を決してうなづいた。
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