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「あいつは目を覚ました?」  望未は自分の部屋に晴臣を呼んだ。部屋の中心の大きな籐の椅子の前で立ち尽くす晴臣を、上目遣いに見上げる。 「・・・いいえ」 「本当?」 「はい」  望未は真顔で晴臣の言葉を待った。わざとらしく大きなため息をついて、望未は言った。 「もうひとり侵入者が入ったとか?」 「はい。そちらは今捜索中です」 「・・・高月馨だろ」 「・・・ええ、多分」 「だからあの時、殺せって言ったのに」 「・・・・・・」 「晴臣ならやれたでしょ」 「・・・私のグレアでは、足止めがせいぜいです」 「まあ確かに簡単にプレイルームを壊して出てくるとは思わなかったよね。にしても」  望未はゆったりとした動きで立ち上がり、晴臣のすぐ近くまで歩み寄った。両手を後ろに組み、甘えるような視線を浴びせる。 「晴臣にしても、高月馨にしても・・・そんなにあの男が大事なの?」  望未の人差し指が晴臣の喉に触れた。先細りの指の先がぐい、と肌に食い込む。 「・・・ねえ、晴臣」  爪の先に力が入る。喉の真ん中を強く押され、声が出せない。望未のグレアが指を通して晴臣の身体に流れ込む。今は「Dom」の気分らしい。 「あいつと寝た?」  返事の代わりに、小さく首を横に振った。しかし望未はさらに指先に力を入れた。 「キスぐらいはしたんじゃない?フェラとか」  晴臣が眉間に皺を寄せると、望未のグレアが豹変した。指の代わりに両手で晴臣の首を締めあげるのと同時に、グレアが心臓の筋肉を刺す。 「よくそんな顔、僕に出来たね?あいつの命を繋いでいるのは僕の機嫌ひとつだって、忘れた?」 「・・・う・・・っ・・・」 「あいつをお前にはあげないよ。あいつがここを出られるのは、死んだときだ」  晴臣は望未の手を外そうとしたが、腕を動かすことすら出来なかった。この施設の中では、Domとしての力を制限される。普段ならば望未のグレア程度、凌駕できるのに。 「晴臣・・・キスしてよ」  視線だけで拒むと、望未の締め上げがきつくなる。息を吸い込むことも出来ない。このままでは失神してしまう。望未は首ごと晴臣を引き寄せ、その唇を奪った。口まで塞がれ、晴臣の目の前は暗くなり始めた。しかし次の瞬間、急に望未に突き放されいきなり解放された晴臣は、激しくせき込みながらその場にくずおれた。  苦しむ晴臣を見下ろして、望未は言った。 「プレイじゃなきゃ・・・キスもしてくれないの」  息を吸い込んでも肺がまだ通常どおりに機能せず、晴臣は四つん這いになって必死に呼吸するしかなかった。  晴臣の頭によぎったのは、黎の顔だった。望未の気分を害すれば害するほど、黎の身に危険が及ぶ。晴臣が側にいない間は誰にも近づけないように部下に言い渡してある。が、望未の命令なら簡単に明け渡してしまうだろう。  そんなことを考えている間に、望未の手にいきなり髪を掴まれ顔を上向かせられる。 「ぐ・・・っ・・・」 「晴臣。チャンスをあげるよ」 「チャンス・・・?」 「本当はあいつ、そろそろ殺してもいいと思ってたんだけど・・・」 「の・・・望未さんっ」 「高月馨を捕まえてよ。そうしたらチャンスをあげる」 「何を・・・考えているんです?」 「それは捕まえてからのお楽しみだよ。早く捕まえないと、あの女が動き出しちゃうよ」  望未は晴臣の髪を離した。そしてやっと呼吸が落ち着いた晴臣を一度も振り返らず、部屋を出て行った。 (高坏・・・どこにいるんだ、早く蓮見さんを助けに来い!)  床に拳を打ち付けながら、晴臣は心で叫んだ。
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