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「蓮見さん!しっかり!」  頭を抱え、低く唸る黎。そしてその横で同じように痛みにのたうちまわる弓衣。晴臣が黎を抱き寄せ顔を上向かせると、その額にはびっしりと脂汗が滲んでいた。 「まき・・・た・・・」  苦しげに表情を歪め、黎は晴臣の肩を力強く掴んだ。痛みを和らげられるものを何も持っていない。晴臣は黎を床に寝かせ、せめてもとブルゾンの襟元を開けた。と、弓衣の声が背後から聞こえた。 「・・・っそこに・・・」  弓衣はうつぶせにじりじりと黎に手を伸ばしていた。そこになにか、と呟きながら、弓衣は黎の首もとを指していた。その視線を辿った晴臣は、黎の首にかけられたプラチナのチェーンネックレスを見つけた。あろうことか、そのネックレスからはじわじわとグレアが染み出していたのだ。  そのグレアの色や強さを、晴臣はよく記憶していた。 (これは・・・高坏の・・・?!)  弓衣はいつのまにか黎のすぐ側までにじり寄り、ネックレスに手を伸ばしていた。晴臣が払いのけるより早く、弓衣の指がチェーンにかかった。 「ああぁっ!!」  指の先が金属に触れた途端、弓衣は感電したように身体を震わせ、再び気を失った。光も熱も感じなかった。ただ、とんでもない衝撃が側にいた晴臣にも伝わっていた。  黎はまだ脂汗を浮かべたまま、傍らで倒れた弓衣を目だけで見下ろしていた。何が起きたか理解できていないようだった。 「馨・・・?」  そっとチェーンを撫でながら、黎は呟いた。本人が触っても当然なにも起こらない。 「蓮見さん、それは・・・」 「・・・Collarの代用品だ」 「Collar・・・」 「これにこんな力があるとはな・・・」  晴臣はその時初めて、黎と馨が正式なパートナーであることを知った。それはとりもなおさず、黎が自らSubにChengeしなくては成立しないということだ。 「・・・真北?」  黙り込んだ晴臣に、黎が声をかけた。まだ黎の顔色は悪い。晴臣は表情を取り繕うと、黎の額の汗を手のひらで拭いながら言った。 「行きましょう。彼女がもう一度目を覚ます前に」 「・・・ああ」  弓衣は、今度こそ気を失っていた。彼女を背負い直して立ち上がった晴臣は、ドアを薄く開け、外の様子を伺った。フェンスの出口を守る警備員に気づかれないよう、身体を低くして外に出た。背の高い草むらに隠れて、黎も続けて外に出る。コンクリートの壁づたいに進み、やっとの思いで見張りに見つからない場所までたどり着いた。   「蓮見さん」  弓衣を降ろし、晴臣と黎はコンクリート壁に背中を預け座り込んだ。二人とも汗で体中ぐっしょりだった。 「・・・何だ?」  お互い前を向いたまま、小声で話した。晴臣は呼びかけたきり、何も言おうとしなかった。黎はただ黙って、あとに続く言葉を待っていた。 「高坏は・・・なかなか芯のある男です」 「・・・ああ」 「・・・若干、融通の効かないところもありますが」 「・・・確かに」 「でも、信じる価値に値する、今時珍しいくらいの熱血漢です」 「そうだな」 「安心しました。信頼できる男があなたの側にいて」 「真北・・・」 「私があなたを守るよりも、ずっと安全だ」 「・・・あいつにお前のような頭脳はないぞ?」 「そんなことはありません、高坏は賢い男です。もとより、あなたを守りたい、という心さえあれば大丈夫です」 「・・・ずいぶんくさいことを言うんだな」 「私も驚いています。自分がそんなことを言うとは・・・年齢でしょうか」 「馬鹿言うな、そんな歳じゃない。俺もお前も」 「そうですね」 「真北」 「・・・・・・」 「何を考えてる?」 「・・・特には」 「お前は自分が思っているより、考えていることが顔に出る」 「・・・そうですか」 「お前は俺と一緒にここを出るぞ」 「・・・・・・」  晴臣は答えなかった。代わりに微笑んで、よく晴れた空を見上げた。
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