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「蓮見さん、こっちです」  晴臣は施設から少し離れた場所に、小さなプレハブ小屋を準備していた。背の高い草に下半分が隠れたその小屋には、簡易ベッドやストーブ、背もたれの布が破けたソファ、ごくごく小さな冷蔵庫が準備されていた。今時珍しい裸電球を付けると、晴臣は振り返って微笑んだ。  黎は小屋の中を見渡し、感嘆の声を上げた。 「驚いたな・・・」 「必要最低限のものしかありませんが、しばらく身を隠すには足りるでしょう」  弓衣をベッドに横たわらせ、黎はソファに腰を下ろした。晴臣は冷蔵庫の上の埃を簡単に拭って扉を開けた。 「水くらいしかありませんが・・・」  ペットボトルを取り出し、晴臣は黎に渡した。床に座った晴臣を、黎はいぶかしげに見下ろした。そして自分の横を指して言った。 「どうしてそこに座る?ここが開いてる」 「え・・・」 「椅子はこれしかない。座れ」 「・・・はい」  晴臣は自分のペットボトルを持って、黎の隣に座った。黎はボトルを開け、豪快に水を飲んだ。半分ほど飲んで、はあ、と息を吐くと、黎は晴臣を見た。 「飲まないのか」 「・・・飲みます」  キャップをひねり、晴臣も水を飲む。同じく半分ほど一気に飲んだところで、隣で見ていた黎が急に吹き出した。  笑われた晴臣は首を傾げた。    「あの・・・?」 「お前、本当に我慢強いよな」 「我慢・・・ですか」 「人ひとり担いでここまで来て、喉が乾いてないはずないだろ。俺に遠慮なんかしないで飲めばいい」 「遠慮しているわけではないんですが」 「じゃあ何だ」 「習性、といいますか・・・」 「ランドオブライトじゃないぞ」 「そう、ですね」  そこまで話して、黎は黙った。晴臣もまた黙り、もう一口水を飲んだ。  キャップを締め、晴臣は言った。 「・・・蓮見さん、私の家族のことを、聞いていただけますか」  父を早くに亡くした聡介と晴臣。母はふさぎこみがちな、病弱な人だった。聡介は父親似、晴臣は母親似で子供のころは体が弱かった。 「兄が警察官になったのは、父の影響でした」  真北兄弟の父は、犯罪を犯し、獄中で命を落としていた。
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