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 関を残し、馨はひとりでセンター棟の出口を突破した。グレアを放出しつづけながら全速力で走るのは、十五分が限度だった。  息が切れても走り続け、センター棟から通路で繋がった、ドーナツ型の建物に入り込んだ。物陰に隠れて息を整えるも、膝が笑って立ち上がれない。  こんなにグレアを人に向かって放出するのは久しぶりだった。ランドオブライトの爆発の際、フルパワーを使ったため、建物を崩壊させてしまった。人を殺さない程度の力に押さえながら的確に警備員たちを伸していくのは骨が折れる行為だった。  息を殺して馨を探す警備員たちから身を隠しているうち、馨はあることに気づいた。警備員たちはまっすぐに馨に向かってきた。なんのためらいもなく、叫びながら集団で馨に突進してくる。同じDomだからこそ、馨のグレアが効く。もし警備員にSubが混じっていたら、違う反応をする。その場でへたりこむか、下手をしたら失禁してしまうこともある。しかし誰にもそんな様子は見られなかった。  ふと、馨はあることに気が付いた。   (もしあの中にNomalがいたら?俺のグレアが効かないはずだ)  記憶を遡ったとき、たったひとり、グレアの影響を受けていなかった人物がいた。  関は馨を逃がしてくれた。グレアを放ちながら走る馨の背中に、関が「離せ」と怒鳴っているのが聞こえた。その最中にも馨に駆け寄る警備員たちはグレアで吹っ飛ばされている。関がDomならば、影響を受けてもおかしくない距離にいた。 (関さんはやっぱりNomalなのか)  グレアの影響も受けず、丸腰でひとり何年も敵の施設に潜り込める男。ランドオブライトの爆発時にも入り込み、怪我をすることはあってもへまをして捕らえられることはない。 (なんだ、この違和感・・・)  それほどの男なら、とっくに望未に近づき何らかの行動に移せたのではないか?本人は「買いかぶりだ」とは言っていたが、武器もなくここまで真相に近づきながらも、絶妙な立ち位置をキープしている。 (待てよ・・・?本当に関さんは真相に近づいてるのか?本当に前嶋望未が目的なのか?)  ひとつひとつに腑に落ちない部分がある。これほど警備のしっかりした施設に入り込めるのなら、晴臣に頼らずともランドオブライトにだって入り込めたはずだ。わざわざ壊滅を待って黎と連絡を取り始めたことも、あまりにもタイミングが良すぎる。  つまりあそこにだけは、近づけない理由があったということだ。 (関さんがランドオブライトに近づけなかった  理由はなんだ?)  最初の爆発で生き残った望未と黎、そして真北。関が真北をスパイにしたのはその直後。望未はその間に火傷で崩れた顔の整形手術を受けている。  では、黎は?  爆発で亡くなった盟主に代わり、黎が新しい盟主に就任したのは、爆発のほぼ一ヶ月後。 (そうか・・・鍵は・・・黎さんだ)  馨は立ち上がった。黎が盟主である間、関はランドオブライトに近づけなかった。その理由は何だ?黎の何が、関を遠ざけた?  考えても明確な答えは出てこない。しかし馨の直感は、やはり関を信じられない、と言っている。 (黎さん!)  馨が走り出したのとほぼ同時に、いたぞ、という男の声が聞こえた。すぐ近くまで追っ手が来ていた。廊下の角を三人の男が曲がって走り寄ってくるところだった。 「どけ!!」  馨は野太い声で叫び、フルパワーのグレアを彼らに浴びせた。悲鳴すら上げられずに、男たちは七、八メートルほど吹っ飛び、漫画のように壁にその体をめり込ませた。もう手加減する余裕は無かった。黎が危ない。  馨はもう一度強い念を送った。 (黎さん!どうか無事でいてください!)
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