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「灯馬!!!」  馨はガラスを力一杯叩いた。出したことのないような大声で何度も叫んだ。が、声は届かない。  すると、白いガウンのようなものを着せられた灯馬が、おそるおそる馨の居るガラスの箱を見上げた。そして驚愕の表情を見せたかと思うと、目にいっぱいの涙を浮かべ、左右に首を振った。口を動かしているが何をいっているのかは読みとれなかった。が、それが「見ないでほしい」と言っているだろうことに、馨は気づいた。一体何が行われるのか、と考えたとき、灯馬は自分の役目を「シビル」だと言ったことを思い出した。  御輿は所定の場所に置かれると、周りを囲んでいる者たちが野太い雄叫びを上げ、ガラスがビリビリと震えた。どの男もみな、目がぎらついていて正気じゃない。なぜか女性はひとりもいなかった。異様な盛り上がりと対称的に、御輿の上の灯馬は泣きながら怯えている。 「やめろ・・・やめてくれ!」  馨は灯馬の役目を悟った。集められたDomたちの前で、Subとして彼らの欲求を満たす。おそらく前嶋望未はランドオブライトの中で、この残酷な儀式めいたものに耐えられるSwich、すなわち「エイリアン」を探していたのだ。そして灯馬が選ばれた。灯馬が何度か馨に連絡することが出来たのは、馨を捕らえるための囮の役目ですらあったのかもしれない、そう思うと馨は(はらわた)が煮えくり返る思いだった。 「前嶋!やめさせろ!前嶋!」  望未は薄ら笑いを浮かべたまま、答えることはなかった。その間にも、灯馬の座る御輿の台の上にはふたりの屈強な大男がよじ登っていた。 「灯馬、逃げろ、逃げるんだ!!」  怯える灯馬を押さえ込んだ男は、彼がまとっていたガウンを乱暴に剥ぎ取った。それが演出なのか、それとも普通のことなのか、周りを取り囲む男たちはさらにヒートアップした。  そしてプレイと言う名のレイプが始まった。     馨は吐き気がした。生け贄だ。灯馬はさながら捕食される直前の小動物のようだった。 「こうやって、自分たちがDomであることの素晴らしさを確認するんだ。滑稽だろう?」  望未は苦しげに唇を噛みしめる馨に語りかけた。 「これは僕の父親の代から変わらない、馬鹿馬鹿しい儀式だよ。志気が上がるっていうんだけど、君はどう?」  「ふざけるな、やめさせろ!」 「無理だよ。こうなってしまったら、たとえ僕でもあいつらを止められない。楽しみ尽くして、すべて搾り取るまで終わらない」 「お前だってSwichだろう!灯馬の気持ちがわからないのか?!」 「・・・・・・だからこそエイリアンと呼ばれるんだ」 「なんだって?!」 「よく見ろ」  望未は急に真顔になり、灯馬とそれに群がる男たちを指さした。既に裸に剥かれた灯馬は、kneelを命じられ、膝を折って座り込んでいた。次のコマンドを受けたのか、灯馬はうつろな瞳で素直に仰向けになった。目には涙が浮かんでおり、それでも拒むことなく両足を開く。二人のうち一人が灯馬の腰を持ち、もう一人は自分の男根を灯馬の口元に近づける。  馨は思わず顔を背けた。 「ちゃんと見ろ。あれが身体の中に潜んでいたSubの習性だ。普段Domを気取ったところで、ひとたび切り替われば身体の欲求に抗うことなど出来ない。彼は嬉しそうに見えないか?」 「そんなはず・・・っ」  馨は再びガラスに張り付いた。  灯馬の表情は複雑だった。目からは涙が流れ続けているのに、どこかで恍惚としている。支配されることに本能がOKを出しているのだ。 「どんなに嫌な相手であろうと、切り替われば支配されたいと思ってしまう・・・でも心のどこかで、本当はDomとして支配したいと願う自分との違和感に苦しんでる。身体と心がばらばらに働く生き物・・・誰が言い出しだんだか知らないけど、エイリアンとは言い得て妙だ」   「そ・・・それを利用しているのはお前だろう!」 「利用?とんでもない、僕は被害者だ」 「何を言ってる!」 「・・・生粋のDomに、説明してもわからないよ」  望未は立ち上がった。そしておもむろに右手を上げ、側にかしづくスーツの男に合図を出した。すると灯馬が犯されている御輿が、スポットライトで照らし出された。男に組み敷かれている灯馬がびくっと震えるのが見えた。  ライトアップは確かに「合図」だった。それまで灯馬と二人の男だけだった御輿の上に、次々と男たちが登りはじめたのだ。 「な・・・っ・・・」 「シビルは神聖な存在だと思われてる。彼と交わることでDomのグレアが増強するとあいつらは信じてるんだ」  男たちは次々と灯馬の身体に群がる。そのうちにDom同士でも諍いをはじめ、勝ったほうが目をぎらつかせて灯馬に跨がる。その間中、灯馬は誰かに貫かれつづけ、がくがくと揺れる。その顔には何の感情も見えない。心が諦め、本能に乗っ取られてしまった灯馬の身体。 「そんな馬鹿な話があるか!これはただの強姦だ!今すぐやめさせるんだ!」 「話の通じない人だな。僕にも止められないって言ってるじゃないか。それとも力付くで止めてみる?その箱を出られればの話だけど」  馨は怒りにまかせてガラスを激しく叩いた。ガラスには傷ひとつつかないが、馨の両手は赤く腫れ上がっていた。 (こんな・・・こんなことが許されていいのか・・・!!)  ぎりぎりと噛みしめた唇が切れて、血が流れた。せっかっくここまで辿りついたのに、こんな箱に入れられ、残酷な光景を見せられなければならないなんて。 「大丈夫?本番はこれからだけど」  くくく、という望未の残忍な笑い声に、馨は急激に我に返った。望未は再び右手を挙げ、今度はぱちん、と指を鳴らした。 「いよいよ主役の登場だ」  馨の背筋が凍りついた。  
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