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「望未の父親は・・・前嶋裕じゃない・・・?」 「・・・・・・」  弓衣は自分の身体を抱きしめ、こくりとうなづいた。黎も晴臣も言葉を失った。望まれない子供であったとは。晴臣は言葉を選んで、こう尋ねた。 「望未さんの兄弟は・・・」 「十以上歳が離れた兄が何人かいたわ。ちゃんとあたしと裕の子よ。でも望未以外の息子は、光の環か、ランドオブライトでみんな亡くなっているわ。・・・ひとりを除いて」 「ひとり?」  晴臣と黎が顔を見合わせたその瞬間だった。プレハブ小屋の入り口が激しく打ち鳴らされた。黎が舌打ちした。 「見つかったか」  黎が立ち上がった。晴臣は弓衣の手を掴んで言った。 「一緒に来てもらいます」 「あたしなんか何の役にも立たないわよ。人質にもならないわ」 「それでもです」 弓衣が晴臣に助けられながら立ち上がるころ、小屋の入り口は破られる直前だった。 「真北、来るぞ!」  黎が叫んだ直後、蝶番がばきばきと音をたてて壊れ、ドアはあり得ない方向に倒れ、追っ手がなだれ込んた。続々と警備服を着た男たちが押し寄せてくるのを、黎と晴臣はグレアで吹っ飛ばした。たまに平気な顔をして突進してくるNomalは腕力でねじ伏せた。幸か不幸か銃やナイフを持っている者はいなかった。おそらくDomとして能力の高い者を警備に選んでいるのだろうが、黎と晴臣の敵ではなかった。  しかし、止めどなく押し寄せる警備員の数に二人が疲弊してきたころ、ひとりの体格のいい警備員が黎に体当たりした。グレアではかなわないと見越して、力業に出たのだ。黎は椅子とテーブルをなぎ倒しながら壁に激突した。 「蓮見さん!」  黎は意識はあったが、強い打ち身で息を吸えないでいた。晴臣が駆け寄ろうとしたのは、さらに増えた警備員によって阻まれた。弓衣が慌てて黎の背中を支えた。 「ちょっと、あんた大丈夫?!」  息を吸えず、気管からひゅううとおかしな音をたてる黎を、弓衣は心配そうにのぞき込んだ。その間も必死に晴臣が追っ手を撃退していた。しかしそれにも限界があった。  黎がやっと息をまともに吸って吐けるようになり顔を上げた時、そばについていた弓衣の頭の後ろに、警備員の腕が見えた。 「に・・・逃げろ!」  とっさに振り向いた弓衣は警備員に羽交い締めにされた。 「きゃああっ!」  弓衣の悲鳴に晴臣も振り向いた。弓衣はプレハブ小屋を引きずり出されかけていた。そしてその隙を見られて、晴臣も背後から殴打された。 「真北!」 「は・・・すみさ・・・」  黎の視界の中で、晴臣がスローモーションで倒れていく。小屋の外で弓衣の悲鳴も聞こえる。  捕らえられ、晴臣に再会し助け出され、前嶋弓衣と出会った。どこか冷めた彼女は、望まぬ妊娠で望未を産んでいた。そしてこうして居る間にも、望未はその力を使ってDomの帝国を作ろうとしている。  あなたの側にいる、と言った馨とは会えていない。  黎は壁に手をついて、必死に立ち上がった。   (馨・・・俺はもう一度、お前と会う)  小さく息を吸うと、黎は全神経を集中させた。そして、いまだに途絶えない追っ手に向かってフルパワーのグレアを放った。  衝撃と放熱で、プレハブ小屋はひしゃげ、敵は次々と吹き飛ばされた。しかし黎の力も限界だった。歪む視界の中、黎は気を失った。 (馨・・・)  黎の瞼の裏に、馨の笑顔が映った。
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