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「いよいよ主役の登場だ」  御輿の上でもはやぐったりとしている灯馬。スポットライトが消えると、御輿はゆっくりと動きだし、広間の奥に収納されてゆく。ガラス越しにそれを追いかけていた馨の目を、再び強い光が襲った。 「うわっ・・!!」  スポットライトが新しく照らし出したのは、灯馬が入ってきた時と同じ入口だった。新しい生け贄の登場だった。 「!!!」  今度は御輿ではなかった。猛獣サイズの檻が台車に乗せられて運び込まれた。 「れ・・・黎さん!!」  手足にチェーン、そしてその先は檻の柵に繋がれている。黎は気を失っていて、右側を下にして横たわっていた。まともな人間が考えることではなかった。馨は叫んだ。 「前嶋ぁっ!黎さんを今すぐ解放しろ!」 「落ち着いてください。あの人が暴れるから、仕方なく繋いだんです」 「黎さんに何をする気だ?!俺が代わりになるから、彼を解放するんだ!」 「・・・・・・あなたじゃ意味がないんですよ」  望未はぞっとするほど冷たい表情をして馨を見つめた。 「あなたに、この腹ぺこDom集団の相手が出来ますか?ざっと見積もっても二百人はいますよ」 「黙れ!これを作ったのはお前だろうが!」 「僕じゃない!」  いきなり望未は声を荒げた。 「僕は被害者なんだ!Domの自信過剰な勘違いに振り回される気持ちがお前にわかるはずがない!!」  望未は残虐な笑みを浮かべると、みたび右手を挙げて合図を出した。すると、入り口から左右を厳つい男に抱えられた真北晴臣とひとりの女が連れられてきた。 「ま・・・真北さん!!」  晴臣は逃れようと腕を激しく動かしていたが、ふと上を見上げて馨の姿をみとめた。目を大きく見開き、驚愕の表情で晴臣は固まった。傍らでぐったりしている女は顔を落としているので、表情もわからない。  望未は馨を無視して晴臣に語りかけた。 「思った通りだよ、晴臣。やっぱり聡介の弟だね」 「!!!」  晴臣は望未を見上げ、ぎりりと唇を噛んだ。馨は記憶の中で、「聡介」という人物を引っ張り出した。それは関から聞いた、晴臣の兄の名前だ。 「裏切るのはわかってたけど、こんなに大々的にやってくれるとはね・・・それも、どうしてその女といるの?」  望未の言葉を受けて、警備員が女の顔を上向かせた。色が抜けて痛んだ茶色の髪が顔にかかった彼女は、ぼろぼろと涙をこぼしていた。ここに来るまでにさんざん痛めつけられたのか、あちこちから血が出ている。 「僕の一番嫌いなことを知っているはずなのに」  望未は立ち上がった。  驚いたことに、馨が監禁されたガラスの箱がガタン、と大きな音とともに少しずつ下降し始めた。馨は思わずガラスに手を当てて、体勢を保った。 「な・・・っ?」 「近くで見たいでしょう?特別席にご案内しますよ」  ガラスの箱は大げさな音をたててゆっくりと下がってゆく。大広間の真ん中にずうん、と着地して、周りを囲んでいたガラスの壁が垂直に持ち上がって行った。走り出ようとした馨を、五人の警備員が阻み、あっという間に羽交い締めにされた。グレアを放出しても何故か警備員たちはびくともしなかった。 (グレアが・・・効かない?!)  望未はふふん、と鼻で笑った。 「無駄だよ。そのガラスの箱に一度入れば、グレアは中和されてしばらく使い物にならない」 「そ・・・そんな馬鹿なっ・・・」  何度も試みたが、馨の身体はなにも発せなくなっていた。ロープを切ることができたのは、ついさっきだというのに。そして警備員の野太い腕によって、馨は膝を床に打ち付けた。グレアが使えなくては、黎を助けることも出来ない。 「と、言うわけで。そこでゆっくり見学していてくださいね」  いつのまにか、ガラスの箱と同じ高さの部屋にいたはずの望未が、黎の檻の側に立っていた。まわりにひしめくDomの男たちは、ぎらついた目で檻の中を見ている。警備員が居なければ、今にもなだれ込みそうな勢いだ。 「晴臣」  望未の鋭い声に、晴臣はびくん、と肩を震わせた。 「出番だよ。ここに来て、この男を支配(プレイ)するんだ」 「なっ・・・?!」  くくく、と笑った望未は、自分の首にかけた革紐に通した檻の鍵を取り出した。
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