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  「出番だよ。ここに来て、この男を支配するんだ」 「なっ・・・?!」  晴臣は檻の中でぐったりと横たわる黎を見た。望未が檻の鍵を開ける。その途端、警備員に押さえ込められていたDomたちが色めき立ち、我先にと黎に向かって手を伸ばした。 「うるさいぞ!お前たちの手に負えるシビルじゃない!」 望未の叱責に一斉に動きを止めたが、ざわめきは収まらなかった。空腹の獣に手負いの兎を見せるようなものだ。 「シ・・・シビルだと?!馬鹿なことを言うな!」  馨は叫んだ。望未は大げさに両手を広げると、満面の笑みを浮かべた。 「彼はただのシビルじゃない。極上だ・・・それはそれは美味な、(にえ)だよ」 「ふざけるな!!」  黎に繋がれた鎖を持って、じゃらりと音を立てる望未。その振動で、うう、と小さく唸った黎に、馨は必死で呼びかけた。 「黎さん!目を覚ましてください!黎さん!」 「覚醒させるのはお前じゃない。晴臣、さあ」  望未の目は晴臣に向いていた。晴臣は忌々しげに首を横に振った。馨は望未と晴臣を交互に見ることしか出来なかった。 「今ここでプレイをしなければ、すぐにこの男を射殺する。もちろんお前も、それからその女もだ」  望未は晴臣の傍らで震える弓衣を指さした。 「弓衣さんはあなたの母親だ!」 「たまたま産んだだけだ。僕を息子だなんて思っちゃいないし、こっちだって迷惑だ」 「望未さん!」 「そんなことはどうだっていい!それよりやるのかやらないのか、どっちなんだ?」  黎はまだ横たわったままだ。どうやら黎もかなり痛めつけられたらしく、身体のあちこちに赤い痣があった。晴臣は望未をねめつけながら、かすれた声を絞り出した。 「そんなことは出来ない・・・蓮見さんには正式なパートナーがいる!」    「もちろん知ってるさ。ねえ?」  くすくす笑いながら檻の橋に身体をもたれかけ、望未は馨と視線を合わせた。二人の関係を見透かされているような気がして、馨は思わず顔を背けた。 「だからこそ今ここで、晴臣がこいつを支配することに意味がある。パートナーの目の前で見せないと、諦めがつかないだろう?」  じゃらっと鎖を引かれて、黎の身体が仰向けに転がされた。馨はもがきながら抗議した。 「どうしてこんなことをする?!黎さんがお前に何をした?!」 「・・・お前には関係ない」 「前嶋!」 「黙れ!」  望未の左手が持ち上がった。すると、金属音と共に、黎、真北を押さえ込む警備員が銃を取り出した。銃口が後頭部に突きつけられ、弓衣は小さく悲鳴を上げた。しかし何故か馨だけには銃が向けられない。 「撃つのは同時だ。銃弾の数も。三人のうち、誰か一人が生き残ることはない」 「や、やめろ!」 「悲しまなくてもちゃんと後を追わせてやるから心配いらない」  結局皆殺しにするつもりなのだ。晴臣が叫んだ。 「殺すなら私を殺せ!あなたを裏切ったのは私だ!他の誰も関係ないだろう!」 「それはプレイの後だ。断るなら撃つ」  ジャキ、と銃が鳴く。馨は固唾を飲んで望未と晴臣のやりとりをを見守るしかなかった。視線だけを馨に寄越した晴臣は、直接頭に語りかけてきた。 (高坏) (真北さん!)  晴臣と馨が頭で会話をしたのはこれが初めてだった。馨は必死に語りかけた。 (このままじゃ全員殺されます) (望未は本気だ・・・もう引き延ばせない) (俺のグレアは使い物にならないんです) (さっきから俺も試しているが全くだめだ。何か飲まされたかもしれん) (いったいどうしたら・・・) (・・・高坏)  晴臣の表情が一変した。彼が何を考えているのかに気づき、馨は肝が冷えた。 (ま・・・真北さん、だめだ、やめてください!) (・・・蓮見さんを助けるためだ。その間にお前は望未をどうにかするんだ) (真北さん!) (終わったら・・・お前の手で俺を殺せ) (真北さん!!)    晴臣は望未に向かってはっきりと言い切った。 「望未さんの言うとおりにします。だからこの銃をどけてください」  晴臣の足下で弓衣も驚いて見上げた。馨は頭をがっくりと落とすしかなかった。黎と真北のそんな光景を見ることになるなんて想定外だ。それも二百人を越える男たちの目前で。  信じられない。  たとえ晴臣が相手であっても受け入れることなど出来ない。   「・・・OK」  望未は不敵な笑みを浮かべた。
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