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 望未の指示は残酷だった。  馨はその光景を直視する事は出来ず、ただ床を見つめていた。  晴臣を恨むつもりはない。それよりも馨はこの事態をどうにか抜け出す道を見いださなくてはならないのだ。しかし混乱がひどい。冷静になれない。  何よりも黎を愛していることを、こんな形で突きつけられるとは。今、黎は一糸まとわぬ姿で晴臣のそこを口に含んでいる。晴臣は馨に背を向けていて、黎の表情までは見えない。淫猥な音が聞こえてくるだけだった。 「・・・うっ・・・ぁ・・・」  晴臣は自分の口を手で押さえていたが、押し寄せる快感の波に耐えられず、小さく喘ぎを漏らした。 (蓮見さんっ・・・離してください・・・もう・・・っ) (前嶋が見てる・・・今止めたらまずい) (汚してしまいますっ・・・)  黎はそれには答えず、黙って舌を動かした。晴臣は自分の指を噛んで耐えようとしたが、足下から上がってくる感覚に押し負けた。 「んっ・・・うぁっ・・・」  黎の唇の端から白濁の液が漏れ出した。あわてて晴臣が身を引くと、黎はむせ込んで、口の中に出された精液を半分ほど吐き出した。そしてその顔のまま、どんよりした瞳で望未を見据えた。  望未は黎と目を合わせると、わずかに怯んだ。まるで「次はなんだ」とでも言うような強い視線に、望未は椅子を立ち上がった。 「・・・晴臣、どうやら足りないみたいだ。挿れてやれ」  その言葉が聞こえて、馨は条件反射で顔を上げてしまった。口の周りを濡らした黎の姿が見えた。首もとに光るチェーンネックレスだけが、馨の心をつなぎ止めている。  そんな時、組み敷かれる黎の様子が少しおかしいことに気づいたのは晴臣だった。 (蓮見さん、大丈夫ですか) (身体が熱い・・・)  切り替わっていないはずなのに、今、黎に起きている変化は紛れもなくSubの反応だった。身体が火照り、晴臣を見上げる瞳にはうっすらと期待すら見える。 (まさか・・・いつ切り替わった・・・?)  晴臣はその方法を知らない。なのにいつのまにか黎の身体がSubになりつつある。このままプレイを続ければ、黎は間違いなくバッドトリップに陥る。ここを出るには、晴臣、黎、馨それぞれのグレアが使えなければ無理だ。しかし馨も晴臣も思うように使えない。  このままでは望未の思うつぼだった。 「どうした?かわいいSubがお前を待ってるぞ?」  まだ銃口はこちらを向いている。どちらにしても八方塞がりだ。しかし黙って殺されるのを待つよりも、万一の可能性に賭けるべきだ。  晴臣は最大の賭に出た。 (高坏、聞こえるか、高坏) (真北さん!) (悪いが気が変わった。俺は本気でこの人を抱く) (な・・・っ) (俺はお前よりずっと蓮見さんの側にいた。お前よりこの人を知ってる) (真北さん!この状況でおかしなことを言わないでください!) (お前じゃ蓮見さんを守れない) (あなただって同じだ!黎さんは俺のパートナーです!) (俺はこの後望未に取り入り、蓮見さんの命を助ける。標的にされたお前にそれが出来るか?) (そ・・・それは・・・) (黙って見ていろ)  晴臣は一方的に話を切り上げた。そして黎の足を持ち上げると、自分の性器を黎に突き立てた。 「んっあ・・・ぁあっ・・!」  いきなり深く突き上げられた黎は喉の奥からかすれた声を出した。馨のいる場所からよく見えるように角度を変え、晴臣は何度も黎を貫いた。そのたびに黎の身体が大きく揺れ、前からは止めどなく精が溢れ出す。  黎の顔は正気を失いかけていた。完全にSubに切り替わるのは間もなくと思われた。 「やめろ・・・やめてくれ・・・っ」  気づくと馨は泣いていた。  真北晴臣のことを信用していた。冷静沈着で黎の信頼も厚く、逃げ遅れた灯馬を助けてくれた。  終わったらお前の手で俺を殺せ。それは馨への謝罪の意味だと思っていたのに、裏切られた。 「黎さんに触るな!離れろぉっ!」  上半身を激しく動かして馨は叫んだ。何が悲しいのか、許せないのか、もう解らなくなっていた。  晴臣は黎を犯しながら、鋭い視線で馨を見つめている。 (もっとだ・・・怒れ・・・もっと・・・)  晴臣の心の声は馨には聞こえていない。晴臣は自分自身を黎から抜き、顔を引き寄せた。乱暴に唇を奪い、あえて口を開け、舌と舌が絡み合う様子を馨に見せつけた。唾液が二人の唇の間から滴り落ちる。 (怒れ高坏・・・我を忘れるくらい怒れ!もうそれしか方法がない!)  それからも晴臣は乱暴に黎を抱いた。望未にというよりも、馨に見せつけるように。 「晴臣が本気になっちゃったみたいだけど・・・仲間割れ?」  くすくすと望未が笑った。馨は反応せず、取り憑かれたように何度も、やめろ、やめてくれ、と繰り返していた。 「まるでお姫様だ」  望未は笑顔を消して、誰に言うでもなく呟いた。 「・・・同じ化物(エイリアン)のくせに・・・どうして・・・っ・・・」  四つん這いにされた黎を、晴臣がもっとも深く穿った。衝撃に仰け反った黎は、汗を飛び散らし、半オクターブ高い声で喘いだ。  その瞬間。 「な・・・んだ・・・?!」  ゴゴゴ、という地鳴りとともに、広間の壁に大きなひびが入った。シャンデリアが大きく揺れ、ガラスの部品が本体から外れて飛び散る。 集まったDom達は出口に向かおうとした者、パニックを起こした者とでもみくちゃになり、人間の上に人間が積み重なった。怒号と悲鳴。  ただの地震ではなかった。剥がれ落ちた天井が降り注いで来る。  それは、馨から発せられていたグレアだった。晴臣は周りの人間達が右往左往する中、今までに類を見ない強さのグレアを発する馨を見ていた。自分に対する「怒り」が、馨のグレアを呼び起こしてくれるのではないかと考えたのだ。望未への怒りでは物足りない。仲間だと思っていた晴臣の裏切りが、馨を本気にさせた。  多くのDom達が、瓦礫の下敷きになった。望未は部下に守られ逃げ出し、弓衣の姿も消えていた。  晴臣は馨が黎を傷つけないことを解っていて、その場を動かなかった。思惑通り、馨の怒りのグレアは黎と晴臣のいる場所だけを残して大広間を完全に破壊した。  
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