247人が本棚に入れています
本棚に追加
28
銃声が聞こえたのは、西棟の最上階、海を望める屋上だった。
「最上階には何があるんだ?」
「望未だけが使えるプライベートルームです。私も入ったことはありません」
「豪勢なことだな」
「全く・・・」
エレベーターはまだ動いていた。しかし途中で止まることを危惧して、階段で上がっていく。
「あの、さっきの女性ですが」
馨は階段をあがりながら尋ねた。
「弓衣、と言っていましたが、彼女は望未の・・・?」
「ああ、母親だ。だが前嶋裕との子ではないらしい」
「え・・・?」
「彼女が言うには、望まない妊娠だったというから・・・そう言うことだろう」
「それは、他の兄弟も?」
「皆、死んだそうだ。ひとりを除いて」
「ひとり?」
「話はそこまでしか聞いてないが・・・誰のことを言っているのかはわからないな」
黎と馨の会話を聞いていた晴臣が足を止め、数段上から振り向いた。
「・・・妙ですね」
「妙?」
「望未の兄たちで、生き残った人間がいるという情報はありませんでした。ですが弓衣さんが嘘を言ったとは思えませんし・・・」
「生きている兄はここにいないということか」
「では、どこに・・・?」
「関係者ではない、ということでしょうか?」
三人で顔を見合わせるも、答えは出ない。
「真北が調べて情報が出てこないということは、かなり巧妙に隠されてるってことだな」
「望未は兄のことを知っているんでしょうか?」
馨の問いかけに、晴臣が答える。
「彼の口から聞いたことはない。もし知っていたら・・・粛清されていてもおかしくない」
「粛清?!」
「彼は自分以外の血縁者を認めない。弓衣さんは特別だ」
晴臣の言葉に黎が悲しい顔をした。
「やはり母親なんだな」
「あんな様子でも、やはりそう思っているのでしょう」
歩き出そうとした晴臣が、ふと視線を上げ、何かを考えている。
「真北?」
「待っ・・・てください、何か・・・誰かにその話を聞いたような気が・・・」
「え?」
その時、階段のずっと上から、再び銃声が響いた。それも続けざまに三発。女性の悲鳴が混じって聞こえてくる。
「まずい、行くぞ!」
三人は走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!