魔法使いになった幼なじみ

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 ジョセフは、自宅の居間でくつろいでいた。 「よっこいしょ。」  座り心地の良いイタリア製の皮のソファから立ち上がり、台所に水を飲みに行く。歳はすでに80になり、足腰も弱ってきたが、この少し硬めのソファは、長時間座っていても体が痛くならない。冷蔵庫からミネラルウォータを取り出し、グラスに注ぐ。  その場で飲み干し、また、居間に帰り、ソファに座り本を読む。 「ふうっ」  ため息を吐くと、本をテーブルの上に置き、背もたれへと体を預ける。昔、働いていた時のことを思い出していた。 「お前ほど、優秀だったら、都会に出れば、もっと稼げる仕事があるのに、なぜ、こんな田舎に?」  よく、同僚に言われた。 「ははは、田舎が、好きなんだ。」 そう誤魔化していた。  この歳まで独身を貫いてきた。役所で働き、それなりに出世して定年を迎えたときには、老後を悠々自適に過ごすほどの蓄えはあった。炊事、洗濯、掃除など身の回りのことはすべて自分で完璧に行える。  その頃は、一人暮らしになんの心配もしていなかった。今になると、病気で倒れても、誰にも気づかれずに……などと考えてしまっていた。  そして、うとうとと、昼寝をする。
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