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「はぁー疲れちゃった。ちょっと休憩にしよっと」
残量が少なくなったガムテープをテーブルに置いて、ベッドに腰掛ける。
所々にダンボールが積まれた自室を見渡すと、あと数日後には長年過ごしたこの家を出るんだという実感がふつふつと湧き上がってきた。
4月から働く会社から通知された配属先は、家から離れたところにある地方都市。都心部の実家から通勤するのは少し厳しい距離にある場所だった。
あわよくばここから通える事業所に配属にならないかと期待していたけれど、現実はそう甘くないみたい。
床に積み上げられた本の山から、おもむろにホコリを被った卒業アルバムを拾い上げる。
どこにしまい込んだのか自分でも忘れていた小学校の卒業アルバム。本棚の奥から発掘したそれは、思い返せば今まで一度も中を見ていなかったかもしれない。
どうせ実家に置いていくし、せっかくだから今のうちに見ておこう。
「うわわ!」
表紙を広げようとすると、挟んであったらしい写真がこぼれ落ちて床に散乱してしまった。
クラスの集合写真に、遠足や林間学校のスナップ写真。多分、小学校の写真販売で購入したものだろう。
一枚一枚拾い上げるごとに、当時の思い出が頭の中によみがえる。
足が速くて人気者だったしゅんすけ君。絵が上手だったゆうみちゃん。学年公認の仲良しカップルだった、たくと君とれいなちゃん。
懐かしいけれど、今でも交流がある子ってほとんどいないのよね。
散らばった写真を拾い集めていると、その中にいかにも素人撮影らしい写真がいくつか紛れ込んでいることに気が付いた。
これは……修学旅行の時に自分の使い捨てカメラで撮ったやつかな。無理に自撮りしようとしてピンボケしちゃってる。
私ともう一人、少し彫りが深くて目が大きい、エキゾチックな顔立ちの女の子が、満面の笑みでこちらを向いている。
こんな子いたっけか?と思いながら写真を見ていくと、この子と一緒に写っている写真がやけに多いことに気が付く。
肩を組んだり、おそろいのキーホルダーを手にしていたり、すごく仲が良さそうな私と彼女なのに。
おかしいな。どれだけ記憶を辿っても、彼女と過ごした日々を全く思い出せない。
名前が分かれば思い出せるかもと、卒業アルバムのページをめくっていくと、6年2組の個人写真ページに、彼女はいた。
「墨田 亜里沙」
ダメだ。名前にも覚えがない。
アルバムを手に途方に暮れていると、自室の扉をノックする音が聞こえた。
「芽衣、夕飯できたわよ」
写真に夢中なっていたらもうこんな時間か。片付け、今日中に終わらせたかったんだけどな。
「わかったー。すぐ行く」
アルバムと写真を本の山に戻したけれど、少し考えて新居に持ち込むダンボールに入れなおした。
特に深い理由はなくて、ほんの出来心だった。
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