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「墨田さん、あの……ちょっと聞きたいことがあって」
「ん?どうしたの?」
その日の終業後、私は事務所を出て帰路につく墨田さんを呼び止めた。
そんなに急いで確認するほどの事ではないはずなんだけれど、妙な胸騒ぎが止まらなくて、早く真相に迫らなければという切迫感があった。
「あの、大したことじゃないんですけど……墨田さんって私と同い年だったんですか?」
「うん。そうだけど」
一瞬、墨田さんの表情が曇ったような気がした。
「あの、南第二小学校に通ってませんでした?墨田さん、私と同級生なんじゃないかと思って」
少し考える素振りをして、墨田さんは答えた。
「人違いじゃないかな。ごめん、ちょっとこの後用事があって。また明日」
こちらに返答の余地を与えないまま、足早に去って行ってしまった。
それから、墨田さんは私を避けるようになった。いや、避けるというのは語弊があるかもしれない。
今まで通り良き先輩として指導やフォローはしてくれるんだけれど、一緒にランチを食べたり、仕事の後に飲みに行ったり、業務外で関わることがめっきりなくなってしまった。
なんだか一線を引かれているみたいで気まずさを感じる日々を過ごす中、上司の広瀬さんから、墨田さんの営業に同行するよう命じられた。
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