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「ごめんね、運転させちゃって」
「いえいえ、とんでもないです」
営業車の運転席に私、隣の助手席に墨田さんを乗せて、客先に向かう。
急な商談だったようで、墨田さんは車内で資料の最終確認に追われていた。
墨田さんが仕事をしていてくれて助かった。今までだったら雑談しながら向かえばよかったけれど、そういう感じじゃなくなっちゃったもんね……。
先方の事務所まであとわずかに迫ったその時だった。
けたたましいクラクションとサイレンが前方から鳴り響き、歩道からは悲鳴まで聞こえてくる。
何事かと騒音の鳴る先に目を向けた瞬間、大きな衝撃とともに視界が勢いよく回転した。
◆
膨らんだエアーバッグ。割れたフロントガラスに、ひしゃげたボンネット。
そして折れ曲がった自分の手首や肩関節からは、皮膚を突き破って配線やら部品やらが顔を出す。
「和泉さん!分かる!? 聞こえる!?」
そして、切羽詰まった墨田さんの声が、忘れていた記憶を思い出させた。
「亜里沙……無事?怪我はない?」
助手席のほうへ体を向けると、大きな目をさらに見開いた親友の姿があった。よかった、大きな怪我はしていなさそうだ。
「全部……思い出したよ。小学生の頃の、亜里沙との思い出。卒業式の日にあった自動車事故のこと。それと、私が人間じゃないってことも」
息をのむ亜里沙の表情を見ながら私は話し続けた。
「あの日もこんな風に事故にあって、自分の体の中から機械の部品みたいなのが出てきて…でも今の今まで忘れてた。思い出せてよかったよ。やっぱり親友のことを忘れたままじゃ寂しいもんね」
「バカ言わないで!すぐに助けを呼ぶから……」
そう言うと、亜里沙は今時珍しいPHSを取り出して電話をかけ始めた。
ほどなくして到着した救急車に運び込まれて、酸素マスクのようなものを取り付けられたところで、私の意識は途切れた。
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