ヒューマノイド

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瞼の向こう側に光を感じて目を開けると、視界に飛び込んできたのは白い天井に白い壁。そして、ベッドの脇に腰掛ける親友の姿。 「おはよう。芽衣」 「ん……おはよう、亜里沙」 子供のころ呼び合っていた名前で呼びかけられて、なんだか少し気恥ずかしい。 「今日はね、芽衣に起きたこと全部を話すためにここに来たの。親友として」 「うん。もう何を言われても驚かないから、大丈夫。安心して話して」 そう言うと亜里沙はホッとしたような顔をして、ぽつりぽつりと、私に起きたことを話してくれた。 私は超高性能ヒューマノイドのプロトタイプで、人工知能には難しいと言われている感情労働に特化した性能を持たせるべく開発したものだということ。 そのために、私が自分をロボットだと認識しないように、人間として育てるという方法を選択したこと。 私がロボットだという事実は、幼馴染として共に過ごした亜里沙も知らなかったということ。 順調に成長した私は、小学校の卒業式の日、亜里沙と一緒に自動車事故に巻き込まれる。その時の自分の損傷具合で、私は自分が人間ではないことに気づいてしまった。 「自分が人間だと認識した状態」という前提が崩されてしまったため、やむなく事故当時と芽衣と過ごした日々の記憶を抹消。芽衣は私の前から姿を消し、離れたところで暮らすようになったんだとか。 「まさか自分の父親が親友を開発したなんて、思いもしなかったわ」 「でも、どうして今回は私の記憶を消さなかったんだろう?」 忘れていた記憶も、この間起きた事故の記憶も、今の私には全部消えずに残っている。 「芽衣、この間の事故の時ね、あなたは私を庇って自分が車体と接触する方向にハンドルを切っていたの。それで、もう充分人間としての感情が育っているって判断したみたい」 「とっさの事だったから、自分でもよく覚えてないや。とにかく亜里沙に怪我がなくて良かったよ。生身の人間じゃ、直すって言っても限度があるし……」 「この間まで自分がロボットだって認識してなかったのに、順応するの早すぎじゃない?」 他愛ないやり取りが懐かしくて、新鮮で、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
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