友達だった彼。

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連れて来られたのは学校付近にある公園。ベンチに腰を下ろすなり、隣をとんとんと叩かれる。 (座れってことなのかな) 不思議に思いながら一人分空けて座る。目の前では幼稚園くらいの子達が駆け回っていた。 和葉とはあの日以来、クラスが被らずに小学校を卒業した。中学校は皆が自然と行く近場のところに通い、そこでもクラスが被らずに卒業した。 (高校も一緒。比較的同中の子が多めだけど、和葉ならもっと県内トップを目指せたはずだよね) といっても、こうして二人きりなのはかなり久しぶりだ。関わりがなかったのはクラスが別なのもあるが、なにより華蕾が頑なに避けていた。 「あのさ、華蕾」 「う、うん」 「……梅原からラブレター貰ったんだ」 梅原──華蕾に和葉は似合わないと言い放った女の子の苗字だ。文武両道で彼女もこの学校の器に入り切らないほど才色兼備だ。 (ラブレター、ラブレター……) 愛をしたため、意中の相手に渡す手紙。梅原は和葉のことが好きだったのか、と今更ながら知った。 「どう思う」 「どう……って。か、鷲宮君と梅原さんなら校内でもトップの美人カップルだと思うし、二人とも才能あるからお似合いなんじゃないかな?」 早口になってしまったのは話題を切り上げたかったのもある。だが何よりも述べたことは事実だ。小学生の頃から意識していたのだとすれば、かなりの年数の片想いだ。 (友達ならこんな時、応援してあげられるんだけど私はそういうのじゃないみたいだし) 幼馴染として聞かれたのかもしれない。OKするにしろ、断るにしろ相手のことをいかに考えて想って返事を出さなきゃ失礼だから。 「華蕾は本当にそう思うのか?」 そう返され、何も言えなくなった。違う、どう答えていいのかわからない。 「ええっと、私は……」 二人がカップルになったところを想像する。校内で祝福され、羨ましがられる。週末には遊園地とか水族館へデートしに行って、ことある事にSNSで幸せな二人の笑顔を眺めることができるんだろう。なんと微笑ましく、なんと可愛げがあって── ズキン。 歯の奥に虫歯ができたみたいに胸の奥が痛い。 妄想は続き、二人の結婚式が浮かぶ。美男美女の式には大勢の友達があちこちから押し寄せ、嬉し泣きばかりだろう。 梅原さんのウエディングベールを取り、末永く共にいると誓いのキスを── 「そ、そう思うよ! 絶対に幸せになれるよ」 「俺は……嫌だ」 変声期で低くなった声が苦しそうに呟く。そして華蕾の手まで伸ばした。ごつごつしていて、大きな手。汗ばんでいる。ビックリして顔を上げると、真剣な表情で和葉が華蕾を見る。 「華蕾に好きじゃないと言ったのは、からかわれてる気が立っていたからだ。ううん。実はもう、あの頃からすでに華蕾のことを友達として見ていなかった」 愕然とした。そこまで自分は友達として見られなかったのかと。滲む世界で和葉はさらに距離を詰める。 「友達以上の関係……つまり、カップルになりたかったんだ。華蕾と一緒に」 「……私と?」 「ずっと昔からさ。動きがゆっくりでも物事に懸命に取り組む華蕾が素敵だと子供ながら尊敬していた。いつしか友情以外の気持ちが芽生えて、華蕾と一緒にいると好きが爆発しそうになっていた」 (信じられない。和葉が私を……) 「なあ、華蕾。俺はお前のことが好きなんだ。伝えるのが遅くなってすまなかった」 自分より少し年上みたいで遠い存在だった和葉がこんなにも焦って言葉にしてくれている。 「返事はまたでもいい、ゆっくり待ってるから」 変わっているようで変わっていなかった。 好きは好きでも華蕾のこの気持ちは恋だったのだ。 「待って、和葉」 ベンチから離れようとする彼の背を振り向かせる。周りの音なんて聞こえなかった。 「ありがとう。私も好きだよ」
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