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恵美は私の顔があんな所に見える。鏡があるわけでもないのに、なぜか、戸惑っている顔が見えたのだ。不思議だけど自分の今の気持ちを表す顔だった。
恵美が「もうやめようよ」と言おうとした時、美弥子ちゃんは五十円玉をどこかへ投げて家の方に走って帰ってしまった。
多分、泣いていたはず。
そのあとは、みんな黙り込んで、その日はバイバイした。
翌日から、美弥子ちゃんは学校にも遊び場にも来なくなってしまって、恵美たちは、なんだか心配になってきていた。
あの事で怒ってるんじゃないかって心配になったのだ。
しかし、そうではなかった。
小沢建設が倒産して、働いていた人たちはみんないなくなったんだと聞かされた。
くしくも、あの事があった日の夜遅くに夜逃げ同然にみんないなくなったと聞いて、恵美たちは美弥子ちゃんに二度と会えなくなったことを理解した。
謝れないままになったことを恵美は大人になった今でも忘れてはいなかった。
もしかすると、美弥子ちゃん自身だって覚えていないかも知れないくらいのこと。
その時にいた友達に覚えているのか、聞いたことはないし、聞きたくもない。
聞いたら、胸がチクッと痛くなる気がするからだ。
あの、自分は、いじめに加担しているんじゃないか?と思って戸惑っている顔が写ったのは一体なんだったのか?
子ども心に傷ついた不思議な出来事だった。
いじめはいじめていると自覚してやっているとは限らない。
恵美はあのことを誰にも話したことはないけれど、今でも時々、美弥子ちゃんのことを思い出すのだった。
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