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落とした涙
死んでしまった。
突然のことで驚いていたら、あっという間だった。
持病が悪化するなんて、自分でも分からなかった。
唯一心残りなのは文也だ。
あいつのことだから、きっと女みたいに泣いてるんだろうな。
それのせいか、俺は成仏できずにいた。
ふよふよと世の中を漂うだけ。
ふと自分のお墓を見つけて、そこに居座る。
どのくらい経っただろうか。
何もすることがなくて、とても暇だった。
いつものように寝ようとすると、足音が近付いてくるのに気付く。
そこに目をやれば、花束を持った文也の姿が見えた。
「文也……」
そう声を掛けるが、勿論声は届かない。
「……お前が死んでから、もう一年も経った」
一年も?
そんなに経っていたのか。
「いろんなことがあった。都会での仕事を辞め、地元に残って、仕事をして……とりあえず、暇を作らないようにした」
「文也らしいよな、ほんと。そうやって女みたいに傷ついてるところもさ」
茶々を入れながら、文也の話に耳を傾ける。
「こうやって生きてると、お前の存在がいかに大事だったか、よく分かったよ。案外俺は、お前に支えられてたのかもな」
「それはお互い様だよ、文也。俺も、文也に支えられて生きてきた」
文也が俺のお墓に花束を添える。
「……あぁ、会いたいなぁ。また一緒にバカやりてぇなぁ……」
「お前、そんなこと言うなよ……俺だって、お前と……」
目の前が滲む。
俺今、泣いてるのか。
幽霊でも泣けるんだな。
新発見だ。
「っぐ、くそっ……」
「……おい、涙、落としたぞ」
文也がふとそう言って、俺に向かって手のひらを差し出す。
「っ泣いて、ねぇし……」
そう言って、涙を拭う。
「泣いてねぇし、ってか?」
「えっ……?」
いつもと違う展開に、驚いて文也を見る。
文也が差し出した手のひらには、大粒の水が数粒乗っていた。
「俺の涙だよ、ばか……」
文也が下を向いている。
地面にぽたぽたと水が落ちてきている。
「っくそ、情けねぇなぁ、俺……」
「あぁ、ほんっとうにお前は……」
笑って涙を拭う文也の姿を、俺は泣きながら、そして笑いながら見ていた。
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