落とした涙

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

落とした涙

死んでしまった。 突然のことで驚いていたら、あっという間だった。 持病が悪化するなんて、自分でも分からなかった。 唯一心残りなのは文也だ。 あいつのことだから、きっと女みたいに泣いてるんだろうな。 それのせいか、俺は成仏できずにいた。 ふよふよと世の中を漂うだけ。 ふと自分のお墓を見つけて、そこに居座る。 どのくらい経っただろうか。 何もすることがなくて、とても暇だった。 いつものように寝ようとすると、足音が近付いてくるのに気付く。 そこに目をやれば、花束を持った文也の姿が見えた。 「文也……」 そう声を掛けるが、勿論声は届かない。 「……お前が死んでから、もう一年も経った」 一年も? そんなに経っていたのか。 「いろんなことがあった。都会での仕事を辞め、地元に残って、仕事をして……とりあえず、暇を作らないようにした」 「文也らしいよな、ほんと。そうやって女みたいに傷ついてるところもさ」 茶々を入れながら、文也の話に耳を傾ける。 「こうやって生きてると、お前の存在がいかに大事だったか、よく分かったよ。案外俺は、お前に支えられてたのかもな」 「それはお互い様だよ、文也。俺も、文也に支えられて生きてきた」 文也が俺のお墓に花束を添える。 「……あぁ、会いたいなぁ。また一緒にバカやりてぇなぁ……」 「お前、そんなこと言うなよ……俺だって、お前と……」 目の前が滲む。 俺今、泣いてるのか。 幽霊でも泣けるんだな。 新発見だ。 「っぐ、くそっ……」 「……おい、涙、落としたぞ」 文也がふとそう言って、俺に向かって手のひらを差し出す。 「っ泣いて、ねぇし……」 そう言って、涙を拭う。 「泣いてねぇし、ってか?」 「えっ……?」 いつもと違う展開に、驚いて文也を見る。 文也が差し出した手のひらには、大粒の水が数粒乗っていた。 「俺の涙だよ、ばか……」 文也が下を向いている。 地面にぽたぽたと水が落ちてきている。 「っくそ、情けねぇなぁ、俺……」 「あぁ、ほんっとうにお前は……」 笑って涙を拭う文也の姿を、俺は泣きながら、そして笑いながら見ていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!