まだ帰るもんか!

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「タケルくーん、お迎えが来たわよ!」  保育園の先生が呼んでいたが、タケルは動こうとしなかった。  なぜなら、今、最高傑作ができるところだからだ!  タケルは慎重に積み木を重ねていく。 「タケルくーん、スーパーマンがお迎えに来たわよ!」  タケルの積み木を持つ手が一瞬止まる。  スーパーマンというと、すごく強くてかっこいい人だろう。  会ってみたい……!  だが、目の前の最高傑作を作ることを決心したのだ!  その決意は簡単には揺るがない!  タケルは積み木を再開する。 「タケルくーん、魔法使いがお迎えに来たわよ!」  再びタケルの手が止まる。  魔法使いというと魔法が使える人のことだ。  つまりアニメのように炎を出したり、ほうきで空を飛んだりするのだろう。  見てみたい!  だが、タケルには使命がある!  この積み木を完成させることだ!  ぐっと我慢してタケルは積み木を再開する。 「タケルくーん、もふもふが迎えに来たわよ!」  ピタッとタケルの手が止まる。  もふもふ……絶対に触り心地がいいに決まっている。  もふりたい!  だが……タケルは未完成の積み木を見つめる。  これを完成させなければタケルは一生後悔する!  ならば、やらねばならない!  タケルは歯を食いしばって耐え、積み木を続ける。 「タケルくーん、あの世からお迎えが来たわよ!」  …………あのよ?  タケルは首を傾げる。  そんな知り合いいただろうか?  知らない人についていっちゃあダメっていうからなぁ。  タケルは特に何も考えず、積み木を続ける。 「タケルくーん、お母さんがお迎えに来たわよ!」  タケルはフッとクールに微笑む。  お母さんにもこの偉業の邪魔はできないのだ! 「今日の晩御飯、ハンバーグだって!」  ……タケルはスクッと立ち上がった。  頭の中はハンバーグでいっぱいだ。  偉業? ナニソレおいしいの?  タケルは母親に向かって駆け寄る。  母親に飛び付くタケルを見て、伯父のスーパーマンや、伯母の魔法使いや、ペットのもふもふの犬や、なぜか来ていた死神が「やっぱりお母さんのハンバーグには勝てないね」と微笑み合ったのだった。  ちゃんちゃん♪
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!