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大学を卒業してから住み始めたアパートも三回目の更新をする頃には手狭になっていて、いい機会だからと引っ越しをすることになった。
幸い収入源が増えたことで、間取り的にも立地的にもワンランクと言わずツーランクは良くなった物件を見つける事ができて、今も引っ越すためにクローゼットの中に積み上げられていた私物を片付けているのだが、無機物で構成されたその山の片づけは難航しているわけではないが、スムーズに進んでいるわけでもなかった。
その事実は持ち主である瀬戸ケ谷誠という人間を表しているようにも思える。
整理してみるとほとんど残す必要のないそれらは、つまり仕事に追われるうちにいつの間にか過ぎていた六年という月日を表しており、小学生だった時と同じ期間だとは比べ物にならないくらい密度の薄いものだということを証明しているようだった。
クローゼットの中身はほとんどが処分するもので整理というより断捨離しているような気分にさえなったが、それでも時折大切な物も混ざっているので確認せずに何でもかんでも捨てるわけにもいかなかった。
いっそのこと、これからの新生活のために心機一転すると考えて確認することをせずにすべて捨ててしまうのも手だったのだろうが、誠にそこまでの思い切りはなかった。
それゆえに思っている以上の時間を取られるその作業が、まるで人生が無駄であると言われているようでため息が漏れる。
誠のため息に反応したかのように、上の棚に収められていた箱がポトリと落ち彼の頭に直撃した。
「いってぇ――」
その箱は落下した衝撃でパカリと蓋が開いた。
「うわっ、懐かしい」
中を確認した誠は誰かに聞かせるわけでもなく感嘆にも似た声を漏らした。
そこには中学生の頃に撮った一枚の写真が入っていたのだった。
写真の中では誠と緊張した面持ちの権太坂将臣と浴衣を着て楽しそうな表情の岩井真美が写っていた。将臣と真美は中学時代いつも一緒に行動していた。この写真は確か夏休みに三人で地元の神社の縁日へ遊びに行った時のものだ。
なんでこんなところにあるのかと不思議に思いながらも懐かしさに目尻が垂れるが、黒歴史とまでは言わないまでも、当時はカッコイイと思っていた勘違いの象徴のような服装がすぐにその哀感をぶち壊し彼の顔を赤面させた。
更に言えば三人の真ん中であどけない表情で笑う真美はともかく、一緒に写る将臣の当時はダサいと心の中で馬鹿にしていた服装が今思うと至極まっとうに見え、悶絶しそうになる。
一人で悶々としていても仕方がないからと誠は天を仰ぎ、目を瞑ってから息をゆっくり吐き出す。
肺の中の空気が徐々になくなるにつれ落ち着きを取り戻せたのか当時の思い出が徐々に蘇ってくるのだった。
この写真を撮った数十分後、誠が守りたかった三人の絶妙なバランスが崩壊したのだ。
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