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娼婦
それがわるいか
なにがわるいか
それはおれがきめるんだ
俺は誰にも縛られない
俺は金になる
俺は俺を売るんだ
だが
俺は誰にも縛られない
【娼婦】
「あんたのやり口って、娼婦みたいね」
細身の男が俺を睨みつけた。
黙っていればコギャル(古い…か?)が喜びそうなロマンスグレーのオジサマだが、この男、オネエ言葉を話す。
オカマでもなければゲイでもない。
ただ、奴はオネエ言葉を話す。
ゲイでもないと言ったのは、俺のカンだ。オレはゲイだ、オカマを掘られてよがる男だ。
俺は見た目はいい男だ。自分でそう目指したし、格好悪い真似は嫌いだ。だから俺はいい男だ。
そして目の前の男から同じ匂いがしない。
匂いは、解る。
なぜかは知らないが、カタギの人間が俺達をやくざ者と嗅ぎ分ける嗅覚があるように、俺がゲイであいつは俺と違うと言う事が解るように、人間は成長していく度に何かに属する度に匂いが発生する。
俺は笑う。
男、前田は俺をゲイとは知らないが、多少嫌っている。
いや、おおいにきらっている
「娼婦?どういう意味だ」
「はん、しらばっくれる気?あんたみたいなシノギの仕方、アタシだいっきらいなの。媚びて、へつらって、弱い振りして。ちょっと油断してシャワーを浴びてたらベッドサイドの財布をスッて帰っちまう性悪な娼婦みたいなやり方。あんた男でしょ?」
「見た目通りにな」
「そうね、アンタにボインなオッパイがあったらアタシ吐くもの。いい、後藤ちゃん。アタシとアンタは同期みたいな物よ。力だってあるわ、お互いに。でもアンタのやり口は嫌いよ。組の利益にもならない」
「おいおい、俺は稼いでいるだろう?」
答える俺におだまり、と前田は冷たく言い放つ。
「アンタはアコギ、よ。同業者騙してクソ汚い事ばっかりして。やくざだって、やっちゃいけない事位あんのよ」
俺は黙って肩で笑う。男らしいなネエさんよ。
お前は本当に、もったいない。そのオネエ言葉さえやめたならお前はとても良い男だ。
だが、良い男は俺だけでいいんだ。もしも前田がオネエ言葉を止めたら俺はどうするか解らない。
いいアンバランスは自分を救う。
そんなもんだ。
俺は肩をすくめ、ゆっくりと話しかける。
「やくざはな、強くなけりゃならんからな。弱い奴らはやくざじゃないさ。俺は俺より下の者に救いを差し伸べる気はない。娼婦、だって」
へつらうのは体を差し出すのは
「いつだって金の為だ。金がない奴らは結婚しているよ。奴らは愛で女を買う。女も愛で飯を食う。愛と金は同義語だよ。…俺はな、前田」
金で自分を売る娼婦さ。だから、金を稼ぐんだ。そうおどけて言うと、前田の顔が歪んだ。
臭い生ゴミを突きつけられた顔、たまらなくケツの穴がうずく。
悪いな前田。
俺は俺より弱い奴らを金で買うのが好きなんだ。お前が俺より弱ければ、もう少し若くて、オネエ言葉を喋らなくてもう少し可愛いければ抱かれてもよいなと思う。
でもそりゃ前田じゃない。前田じゃない前田なら好きになれただろう。
汚い言葉を前田は不用意に吐かない。
俺が喜ぶと知っているからだ。お互い、知り過ぎてるって言うのはつまらない時間しか生まないもんだ。
ああ、可愛くない。可愛くて可哀そうでみじめな男に罵倒されながら抱かれたい。
俺はため息を一つついて今夜、誰を呼ぼうか。
そう、思った。
【娼婦】完
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