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世界で一番変な男
ん、と後藤は唸った。噛みしめる口元、目をつぶってゆっくりと腰を沈めた。
左の尻たぶを自分で持ち上げて、ゆっくりと物を埋め込んでいく。至福の時でもあったが、後藤には膣がない。となると、男の陰茎を受け入れるのは肛門である。
もともと受け入れるようには神は人間を作らなかった。しかし、と後藤は思う。
(どうして糞をするだけの男のケツに感じる場所を作ったんだ)
女には見当たらない、男に本来不要の物をとりつけた神はゲイだ、そんな考えに唇を吊り上げた。
「後藤さん、大丈夫ですか、やっぱり正常位で僕が」
「いいんだ、こうして自分でやると、無理をしているみたいでゾクゾク来るんだ」
じゅぶじゅぶと僅かながら卑猥な音を出して、後藤はタケルの大きな陰茎をくわえきった。さすがにすぐには動けない。綺麗に割れた腹筋、そして自分の体の中心に雄を受け入れた事に満足しながら腹をさすった。
自分のいい場所は左の奥だ。触れられるとぞくぞくする。
待ち焦がれている。しかし後藤はすぐには動かない。
タケルには自分の体重を支えきれないと解っているので(なぜならタケルの体重の二倍の重量を後藤は持っているからである)少し体を浮かしている。そして、自分では動かない。
自分で動くと、喜びがなくなってしまうからだ。突然、もしくは偶然にそこに触れてしまう、自分の予期せぬタイミングで快感がやってくる。それが堪らなくいい。後藤のペニスは興奮で勃起している。
「タケル、挿れられてイった事があるか」
「え、まあ、扱いて、ですけど」
「気持ちいいよな」
「まあ、でも」
「ん?」
そっとタケルの手が後藤の肉棒に触れた。膨張したそれは大きい。
「これぐらいの人になると、痛いだけですよ。」
後藤は良かったな、俺が変態で、と言った。タケルは笑いながら黙ってうなずいた。どうやら痛い経験をした事があるのだろう。俺が変態で本当に良かった、と後藤は素直に思った。
「後藤さん」
「ん、」
「そろそろ痛みは?」
「ああ、まあ」
答えた瞬間にぐん、とタケルのペニスが盛り上がった。違う、タケルが腰を揺らしたのだ。堪らずにがくりと腰が落ちた。ゆっくりとタケルの上半身が起き上がってくるのがなんとか開いている目で確認が出来た。
驚いた事に、タケルに全体重をのせているにも関わらず、若者の顔は涼しげだった。
「今日は俺にリードさせて下さいよ、いい所、一杯知ってますから。」
「激しくしてくれよ」
後藤は目をゆっくりと瞑りながらタケルの首に腕を回す。タケルの目が優しく後藤を見ている。そんな場面は後藤には必要がない。お前は快感だけを与えればいいんだ、と思う。
「後藤さん、激しくしなくても、気持ちよくなれますよ」
「いやだ」
「後藤さん」
「いーやーだ」
「…もしかして甘えてます?」
「まあ、そんな所さ」
ちょっと気持ち悪いな、と細見の青年が笑って、強面の中年が目を閉じながら笑う。
タケルの腕が後藤の逞しい背中を撫でた。
「ねえ聞いていいですか。」
「まあ、答えられる事なら」
「良い人、います?」
「俺の周りは悪い人ばっかりだよ」
「そうじゃなくて」
早く突いてくれよ、そう思いながら後藤は笑った。
「俺の理想はエベレスト並みだからな。誰も登ってこれないのさ」
もちろん登らせる気もないが。
タケルは性根が優しくて素直なので、後藤の捻くれた答えに、早く見つかるといいですね、と優しく言った後、後藤の大好きな醜い男になって罵声を浴びせて後藤を喜ばせた。
後藤の好みは要するに彼を喜ばせる男ではなくて、きっと蔑む男なのだと思う。
それが彼を喜ばせるし、彼はきっとその男に忠誠を誓うと思う。
なぜなら彼はとても世の中を理解しているからである。つまんないのだ。だから快楽を人より望むし、無茶をして喜んだりもする。
未知を望む彼は、自分を拒否する男を好むだろう。
その時一番彼は輝くし、それが一番幸せなのだ。そう、タケルはシャワーを浴びに行った後藤を見送りながら思った。
(それって、幸せな事なのかな)
もし、彼の耳にその呟きが聞こえたら、きっと彼は悪い笑いを浮かべて言うだろう。
「幸せなんて、この世にあるのかい?」
彼はある意味世界で一番不幸であり
彼はある意味世界で一番幸せな男だ
ようするに彼は変態である。
【世界で一番変な男】完
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