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dirty
昔、
汚い字で名前を書く
と、いうことは
汚いパンツをつけていると、いうことです
と、先生に言われたが
俺はいつでも綺麗なパンツを身につけている。
【dirty】
「こちらにご記入下さい」
好みのお兄さんがにっこりと微笑んで、俺にペンを差し出した。
自然に俺は眉が下がる。
この、ホテルに泊まる時に名前、氏名を書く、と言う慣習がたまらなく俺にとっては苦痛だ。
「日吉」
そばでメールを見ていた男を呼びつけながら、お兄さんに、にこっ、と笑う。
「代筆でも構わないだろう?」
お兄さんもにこっ、と笑う。
「申し訳ございません。直筆でお願いいたします」
鉄の笑顔だ。
こいつは二重人格に違いない。顔は笑顔で心で毒を吐くような人間だ。
…いい度胸してやがる。
顔はタイプじゃないが、抱かれてやってもいいと思う。
「俺はアル中でね、手が震えてしまっていけない。」
「さようでございますか」
にこっ…以上。早く書け、と笑顔が急かす。
「…代筆でも構わないだろう?」
お兄さんがにこっ、と笑う。
「申し訳ございません。直筆でお願いいたします」
この野郎、と思うが俺は一般人には手を出さない。
後が面倒だからだ。
だから、俺は正直になる。顔が赤くなるのは仕方がない。正直が一番だ。
哀れそうに見えて…いい。
「お兄さん」
俺は身をかがめてお兄さんの耳に小声で話した。
「俺は、字が汚いんだ。すごく、すごくな。だから恥ずかしいんだよ。」
お兄さんは驚いたように俺を見た。俺はいい男だ。
見た目も中身もいい男だ。
だが、字だけはまずい。
ミミズがのたうちまわって跳ねたような
なんとも言えない奇妙な字だけしか俺の手からは生まれない。
お兄さんはしばらく黙って、小さな声で代筆しましょうか、と言ってくれた。
後でお礼にホテルのバーに誘おうと思う。
昔、
汚い字で名前を書く
と、いうことは
汚いパンツをつけていると、いうことです
と、先生に言われたが
俺はいつでも綺麗なパンツを身につけている。
いい男っていうのは
多少の欠点も帳消しになる。
いい世の中だ。
【dirty】完
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