タロウと夏

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「ラーメンを食べて寝てるんですが、もう起きると思います。早く捕まえてください」 「そうですか。宝石強盗を担当している人間を呼びますね。あちらの椅子に掛けて御待ちください」  女の警察官は茶色い長椅子を指した。颯はそこに座ると両手を組んだ。  体格のよい警察官二人が颯の前に来た。年齢は四十代くらいだろうか。一人は色白で目の横に黒子がある。もう一人は色黒だ。 「斎藤と申します。これから君の家にパトカーで行くね。他にも四人助っ人が行くよ。二台で行くから君もパトカーに乗ってくれる?」  色白の警察官が言った。 「はい」  颯は心臓が大きく打っているような気分で返事をした。  警察署の外へ出て、パトカーの後部座席に座るとシートベルトを着けた。斎藤の運転で走り出す。夏の陽射しが眩しい。  マンションに着いた。颯が鍵を開けると警察官がなだれ込むように部屋に入った。颯はマンションのドアのところで様子を窺った。  五分くらいして宝石強盗が手錠を掛けられて出て来た。背の高い方の男が吐き捨てるように言った。 「君たちが居なくなったのを知ってから俺たちも逃げ出そうと思ったんだが、犬が玄関で牙を剥いてるんで逃げられなかったんだ。しかも一度噛まれた」  颯は笑みを浮かべた。それはタロウだ。きちんと役目を果たしてくれた。斉藤は言う。 「颯くんは犬を飼ってるの?」 「いえ。以前飼ってました。この前、迎え盆でお迎えに行って家に帰って来てるんですけどね」  斉藤は目を大きくした後に笑った。
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