タロウと夏

　真っ白い去年買ったばかりの扇風機が首を振って六畳の洋室に風を送っている。エアコンは点いているが今日は台風のフェーン現象で気温が四十度近くあがっている。颯(はやて)はこの子供部屋になっている洋室で机に向かってパソコンを打っていた。一カ月後が締め切りの新人賞に応募するためだ。賞金五十万円。それが目的のひとつだがそれより自分の書いた小説を一人でも多くの人に見て欲しい。だから夏休み中はこれに没頭しようと思っている。新人賞の規定は原稿用紙三百枚分。新人賞に出すのは初めてではないが、今回は自分の体験してきたことを盛りこんでいるため一次選考でも通過したい。
　颯は五千文字ほど書くとパソコンの電源を切って夏休みの宿題を始めた。英語のプリント七枚。来年は受験生だから頑張らないといけない。
　颯が住んでいるのは埼玉県の県庁所在地だ。さいたま市。最寄り駅は大宮という埼玉で一番大きな駅である。住まいは２LDKのマンション。一人っ子だから狭くはない。貸家に住んでいたのだが一年前にここに越してきた。ショッピングに来たことがある程度の街だったが都会だけあって便利だ。一年生の夏に転校して来たが仲のいい友達も出来た。