61人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
◆ ◆ ◆
「桃様、本当にこれで宜しいんですか?」
「あぁ、これで良い。」
私にとって太は兄というよりも村人の一員だった。変な情が湧くよりは、距離を保ったままの方がお互いのためだ。
「月に赤みが帯びているなんて、ここではあの日以来ではないでしょうか。」
「そうだな。これは、まだ何かあるのかもしれん。」
普段ここから見られる月は黄色を帯びた満月だ。その月が地獄へ行く者への最期の餞となる。
赤みを帯びた満月を見るのは魅颯湖村が壊滅し、村人達を見送った以来だった。
「まだ、何か起こるかもしれないな。」
◆ ◆ ◆
「桃華ぁ〜!!桃華ぁ〜!!ちょっと聞いておくれよぉ〜!!」
何なら慌てながら走ってくる君与だ。その顔は顔面蒼白であるが、どこか嬉しそうな雰囲気も読み取れた。
「君与、どうしたの?」
「どうもこうもないよ。これ見てくれよ。」
君与から差し出されたのは真っ黒な封筒だった。
「これ、これ読んで!私はどうしたら……」
君与は泣き崩れてしまった。
君与から差し出された封筒を開封し、中に入っていた手紙を広げ、目をお通した私は驚愕したが、表情に出さないように優しく君与に声を掛けた。
「私達に遠慮することはないわ。良かったじゃない。あなた達二人だけでも通知が来ただけ嬉しいわ。」
「でも…………桃華はそれでいいの?私達の目的は?」
最初のコメントを投稿しよう!