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残映
波が足元を掬う。自分が立っている所を象るようにして、砂が巻き上げられた。
強い力で引き込まれてゆく。波はどこへ向かうのか。地平線の向こうまでこのまま連れて行ってはくれないか。
水面に反射する夕焼けが、波を不透明にして輝く。海中の様子など見せずに、てらてらと幾重にも表情を変える波は、研磨され、滑らかになった金属の塊のようにも見えた。
潮と街の香りとを混ぜた風が波とは反対に海岸へ引き止めようと顔を押す。
砂浜には、一人の男性と、いくつかの家族連れが佇んでいた。
男性は、20代は後半といったところで、無精髭を蓄え、実際の年齢よりもずっと歳を重ねているような雰囲気を持っていた。
波打ち際に立って、沈んでゆく夕日を眺めている。
空は太陽に焼かれたように真っ赤に燃える所と、重たい雲に遮られ紫色の影を落とす所とに分かれていた。
男性は、満足したのかフラフラと引き返してゆく。
夕方の砂浜は、自然の力強さを語りながら、静かに砂を巻き上げていった。
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