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嚆矢
ーー夕日を眺めると思い出す。
帰り際、太陽に飲み込まれていく君の姿。西日は昼までの光とは異なり、頭の裏まで貫かれるような鋭さを持っていた。
逆光の中、手を降る君のシルエットが夕日の中にいつでもあるかのような錯覚を覚える。
夕焼けの中でしか君とは会えない。
暫しの逢瀬に満たされた心を持って、家路につく。
狭いマンションに戻ると、ポストに手紙が入っていた。
『秋元修様』
自分宛の手紙だ。差出人は書かれていない。
エントランスのドアを開け、階段を登り、角部屋に向かった。
修の住む小さな低層マンションは、JR中央線の駅からは30分ほど、西武新宿線から15分ほどの所にある。
この部屋に越してきたのは、去年のことだった。
話は2年前に遡る。
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