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会遇
2年前、私は5年付き合った彼女と別れた。
それは他愛のない内容だったが、付き合いが長かったこともあり、周りからは心配された。
何気ない日常や習慣が失われるのを感じていた。
原因は、大学を出てフラフラとしていた私自身にある。
社会に出て、毎日を忙しそうに過ごす彼女と毎日本屋に行って、喫茶店でぼーっと過ごす男の間には、いつしか埋めることのできない溝が生まれていた。
焦って就職先を探し、どうにか働き先が決まった頃、彼女から別れを告げられた。
最後まで私の事を考えてくれる人だった。
情けない気持ちと寂しさと、これまでの愚かな行動を反省するかのように毎日働き詰めで、時間が過ぎるのを待った。
しばらく一人を満喫していると、友人の一人が
「若いうちに遊ばないと後悔する」
と余計なお世話を働かせ、飲み会をセッティングしてくれた。
一人は一人で充実していたので、なかなか乗り気にはなれなかったが、友人自身が彼女を作りたいとのことだったので、人数合わせとして参加した。
当日、16時に渋谷で落ち合った。
友人の隼人は、学生の頃に付き合った彼女を最後に、彼女いない歴10周年を更新していた。
服は当たり障りのないファストファッションに見を包み、ヘラヘラと浮かれている様子だった。
気が早すぎる。
飲み会まで時間があったので、隼人の計画がうまく行くよう駅前のファミレスで作戦会議を練った。
作戦は、隼人の趣味であるスノーボードやキャンプといったアクティビティを話の中心にして、女の子の反応を伺う。
アクティビティに興味を示した子を誘い、そこからはフォローに回って、次のデートの約束までこぎつけるというものだ。
隼人は、
「これはもらったな。完璧だ。あとは頼んだ」
なんとも他人任せで不確定要素の多い計画だが、
飲み会では思いの外うまく行って、すんなり次のデートまでこぎつけた。
飲み会では活発そうな涼子と少し大人しそうな小夜が、お互いのことを紹介してくれた。
涼子は、見た目の通り、音楽フェスやキャンプが好きで、隼人と盛り上がっていた。
私は隼人が順調にデートの約束をするところまで見届けると、ふと時計に目を落とした。
想像よりも盛り上がった飲み会は、終電のアナウンスとともにお開きとなった。
「朝まで飲もうぜ」
とうるさい隼人を置いて、会計を済ませ、店を出る。
隼人のためにも終電までに彼女たちを帰さなければ。
ここで朝まで飲んでは今までの失敗を繰り返すだけだ。
とにかく涼子と小夜を駅に届けるべく、駅までの最短ルートを案内し、改札まで送り届けた。
涼子はJR、小夜は京王線だという。
まずはJRの駅前まで移動し、涼子を見送った。
私も西武線なので途中まで一緒に帰ろうかと思ったが、京王線でも途中までは帰れるので、そのまま小夜を送ることにした。
飲み会では、隼人と涼子の話題に愛想笑いを浮かべるだけだった小夜が口を開く。
「今日はありがとうございました。久しぶりに人と話して楽しかった」
少し言葉尻が小さくなる声は、どこか話す言葉とは裏腹に不安げな様子だった。
話をしていくうちに隣駅だという事がわかったので、小夜の最寄り駅まで一緒に乗って帰ることにした。
電車の中では、隼人の昔の馬鹿な話をして、毎回朝まで隼人と二人で飲んで失敗をする、という話をしていた。
「もっと修君のことも知りたいな。そうだ、連絡先」といって、携帯を取り出す小夜。
隼人の成功だけを考えていた私は、すっかり自分の事を忘れていた。
思わぬ棚ぼたに肖り、連絡先を交換する。
小夜のアイコンはひょっとこのお面を被ったものだった。
予想外な茶目っ気に少し惹かれている自分がいた。
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