漸進

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漸進

ーー1週間後、小夜と二人で陶芸教室に向かった。 行きの電車では、陶芸家は気難しいという話で盛り上がり、 作ったものを割られるんじゃないか、とか、師匠を超えたら店を貰おう、など好き勝手言って盛り上がった。 実際は、物腰が低く、体験者の感性を尊重してくれるとても気さくな講師だった。 初めて使う電動ろくろ。 小夜は器用に形を整えていく。講師からも「教えることはないね」とお墨付きだった。 私はというと、あとちょっとというところで力が入ってしまい、極めて前衛的な器に仕上がった。 未来にこれが出土したら、きっと供物か何かと思われて研究者を惑わせるに違いない。 大きくうねったオブジェは花瓶ということにした。 最後に名前を入れて、送り先を記入する。 私は平日は仕事で終電間際まで働き詰めていたので、再配達が面倒だなぁと独り言を呟くと、 「だったら一緒にうちに送る?」 小夜から提案があった。 なんだか恋人同士のやりとりのようで、浮かれてしまい、間抜けな返事をした。 1ヶ月後も会う口実ができた。 毎週会っているというのに、どこかで会えなくなるんじゃないかと不安になることがある。 それは自分が続けてきた曖昧な態度が招いた結果だ。 この1ヶ月の間に答えを出そう。 陶芸家の言った 「器の形はその人の心を表すと言われています」という冗談が頭の後ろでリフレインしていた。 この陶芸体験が後に重要な出来事になる。
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