椎名千春の災難~人工知能は悪意を生む!?~

2/317
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/317ページ
 論文を読む限り、この研究者も人工知能と人間が完全に同一の心を持てるとは考えていないらしい。しかし、人間の心の動きを理解し、判断させたいという。全く以て謎の思考だ。  ひょっとしてこいつは、人類を脅かす人工知能を作る取っ掛かりになろうとしているのではないか。そんな危惧を抱いてしまう。だが、大いに惹かれるのもまた事実だった。  そう、惹かれてもいたのだ。無機物に有機の心を与えようとするこの男に。  それは私の職業とも、どこか通じるところがある。だから私は、彼に会おうと決意を固めた。準備は慎重かつ大胆に、彼に自分の真意を知られないようにしながら、その研究を探りたい。  それと同時に、彼には絶対に知り得ない人の心が存在することを教えなければならないだろう。人工知能が万能だという幻想を抱かないうちに、正しく警告を発する必要がある。そのためにも、これから行うことが重要な意味を持つことになるはずだ。 「ああ、今から楽しみだ」  思わず漏れた笑みに残虐さが滲んでいたことは、自分でも自覚していた。  それは唐突な手紙だった。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!