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 その日「またあした」と言ってサキと別れた。  自動販売機が立つ角で別れるのはいつものことだった。明日も当然あるのだろうと思っていた。明日も一緒に中学に行って、帰る。それは卒業まで続くものだと思っていた。  幼い頃から一緒に過ごしてきた僕とサキの関係は、なんとなく、ただなんとなく続いていくのだろうと思っていた。  しかし、ドンという鈍い音とともにその「なんとなく」は何も根拠がなかったのだと思い知ることになった。  サキが歩いて行った方向からその音が聞こえた瞬間、妙な胸騒ぎを感じて僕は走り出す。サキが曲がった道のすぐ向こうには大きなトラックがなぜか斜めに止まっていた。トラックはどうでもよかった。僕の目を奪ったのは、トラックの前にアスファルトの上に横たわる制服姿の女子だった。  顔がこちら側を向いていないのに、それがサキだとわかった。「サキ!」と叫びながら、解き放たれたように僕はサキのもとへ駆け出した。 『新宮沙希(にいみやさき)を確保しました』  ふいに声が聞こえた。男の声だった。何もないはずの空の方角からだった。  僕が見上げるとそこには信じられない光景があった。  黒いスーツの男が空に浮いていた。  僕より数メートル上に浮かぶその男はたしかに「新宮沙希」と言った。なぜサキの名前を呼んだんだ? 「オマエ……、オマエは何なんだ!」  僕は空に浮かぶ男へと叫んだ。スーツの男は僕を冷たい目で見降ろし、 『私が見えているというのですか……? そんなはずはないですよね』  男は一つ頷いたかと思うとフッと消えてしまった。  空に手を伸ばしても、僕は何も掴むことはできなかった。何もいなくなってしまった空間に呆然としていたが、右側からのざわめきに僕は我に返った。 「おい! しっかりしろ!」 「息をしてないぞ! 救急車!」  血まみれのサキの顔が僕の目に入り、これまでの人生で出したことがなかったほどの声で絶叫した。
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