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*  翌日、僕は中学の屋上に来ていた。  古びた校舎の屋上で、錆びた金網にもたれかかっていると、目の前がぼんやりと光り始めた。  この光が僕を導くのだ。  「あの世」へと――。  いまはアサカの言うことを信じるしかない。 *  サキに会う方法が、僕自身が死んであの世に行くことだと気づいた後、彼女は言った。 『貴方を我が国の戦士としてスカウトするわ。それであっちの世界で会いましょう。そして、彼女を助け出すのよ』 「……どうやって行けば?」 『そうね……。申請が必要で、本来ならばそれなりに手続きが面倒なんだけど、二、三日ってところかしら』 「貴方ならば……? 僕は何だっていうんだ……」  その問いには答えず、女は僕の目を見ていた。 『嘘はついていないようね、何も覚えてないようね。いいわ、端的に教えてあげるわ。貴方は、なのよ』 「え……」 『だからこそ、私たちが見えたり触れたりできるってわけね。「この世」の住人になっているから能力はほぼ失われているけれど』  否定しようとしたが、サキが言っていた言葉が脳裏に蘇る。  ―-『レンも戦士にされそうになったんでしょう!? でもこっちの世界に生きることを選べたんでしょう!? 教えて! どうやったら帰ることができるの!?』 『貴方は4歳の頃に臨死体験の中で、戦士になったことがあるの。その経験があるからこそ私たちを見たり、触れたりすることができる』 「僕が……」 『貴方なら彼女を助け出すことができるかもしれない。特級戦士として連れていかれた彼女を助け出すなんて並大抵のことじゃないだろうけど』 「……助けられるなら、何でもやるさ」  並大抵のことじゃなかろうと僕はサキを失いたくなどはなかった。 『いいわ。これも何かの縁、あっちでのお迎え担当は私がすることになると思うわ』 「お迎え……?」 『入国手続きするにはね、お迎えが必要なの。お迎えがいないのに、あっちこっちをうろうろしちゃうと、間違って「この世」にふらふらしちゃったりするの』 「ユーレイになるってことか」 『そうよ。だから私が水先案内人として、あっちの世界でお迎えする。あ、名前を教えていなかったね。私は柊アサカ』 「あ……日下部蓮(くさかべれん)、です」 『明日の午後に、死に場所とする場所に来てくれる?』  死に場所に来てなどと言われたのは初めてのことで思わず僕は吹き出した。しかし、彼女は笑うことはなく、 『一度は「この世」に帰ることができたのに、今度は戻ることができないかもしれない。本当にそれでも――いいの?』  アサカの目は僕の心まで見通すかのように深く見えた。吸い込まれてしまいそうな感覚に陥った。同時にサキの『助けて!』という声もまた頭の中でこだました。僕は首を横に振る。 「サキを……サキを助け出す!」 『了解。では手続きを進めるわ。「この世」から戦士立候補なんて滅多にないことだし、「この世」から消してしまうのに少しは気が引けるけど……こちらとしては歓迎するわ』  アサカは右手を差し出した。僕はその手を握り返した。雪のように冷たい温度を感じながら、僕は一抹の不安を胸に抱いていた。明日死ぬ、なんてことを考えたことは一度もなかったのだから。
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