11.聞こえるけど見えちゃダメなの?

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11.聞こえるけど見えちゃダメなの?

 目が覚めたら、バエルが僕を抱っこしてた。びっくりしすぎて動けなくて、少しして慌てる。僕なんかが触ったら、綺麗なバエルに悪い。 「汚れちゃう」 「カリスは綺麗だぞ」  言われた言葉にきょとんとする。だって、僕は醜くて汚らわしい存在なんだよ? 呟いた言葉を、バエルが上書きする。僕は可愛くて素直で愛らしいと。すぐに信じられない。だって、この僕だよ? いつも近寄るなって蹴られて、物をぶつけられたのに、バエルは目が悪いのかな。 「目は悪くない、カリスが前に暮らした人間どもが愚かなのだ」  あれ? 僕いま、口に出した? 見上げると、バエルは穏やかな顔をしていた。少し笑ってて、僕を嫌ってないみたい。 「契約したことは覚えておるか?」  昨日の夜、名前を貰った時に契約もした。頷く。ちゃんと覚えてるよ。契約者だって言ってた。主人は分かんないけど、息子になるんだよね。 「そうだ。契約者と悪魔は常に繋がっている。ゆえにそなた……カリスの声は俺に届く。不安があれば呼べ、怖ければ望め。すべて叶えてやる」 「どうして?」 「契約とはそういうものだ。俺を呼び出せる人間はほぼいない。一緒にいると約束したであろう? ずっと一緒だ」  嬉しくなった。僕と一緒にいて嫌だと思わない人がいるなんて。凄いな、やっぱり綺麗な人は凄いんだ。僕が笑っても殴らないし、一緒に笑ってくれる。 「笑ったら殴られたのか?」 「……うん」 「俺はカリスが笑うと嬉しい。だから笑って過ごせばよい。この城の誰もそなたを傷つけたりはせぬ」  すりと頬ずりしても撫でてくれる。温かい。僕、抱っこがこんなに気持ちいいと知らなかった。担がれて運ばれた時は落とされたし、摘まんで放り出されるのも当たり前だった。でも抱っこは違う。僕と向かい合ってて、僕が手を回しても触っても叱られないの。僕、抱っこが好き。 「まだ子どもなのだ、甘えて過ごせ」 「ありがと、ございます」 「ありがとう、だけでいい。言いづらそうだぞ」  くすくす笑う。バエルの黒髪が揺れて、僕の頬に触った。バエルが楽しそうだと僕も嬉しい。綺麗な艶のある黒髪も、お顔も、角や翼も全部綺麗な人。心も綺麗なんだよね。 「……っ! 翼が、みえる、のか?」  何を驚いてるんだろう。僕何かいけないことした? もう嫌いになったの? 怖くて体を小さく丸める。バエルに嫌われるのはやだ。一緒にいてくれるって言った。僕のこと嫌いでも側に置いてくれるの? また捨てる?  混乱した僕をぎゅっと強く抱き締め、バエルは額に唇を当てた。ぶつかったのかと思ったら、また触れる。それから頬、目の横、鼻の頭も。顔中にいっぱい。 「すまん、驚いただけだ。カリスを嫌いになることはない。いい子だ」  ばさばさの僕の髪を撫でて、頭にも唇を当てる。この動作、なに? すごく気分がいい。大切にされてるみたい。へにゃっと体から力が抜けた。顔も崩れてないか心配になるくらい、気持ちよくて温かい気持ちになる。 「キスが気に入ったのなら、毎日してやろう。カリスは我が息子、どれだけ愛しても足りん」  うん、このキスっていうの、大好き。一緒がいい。僕、バエルの息子にしてもらって良かった。
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