110.うまくお話しできるかな

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110.うまくお話しできるかな

 お庭に出る前に、僕はパパに抱っこされる。工事してる場所は足元に色々落ちてるから、踏んだら危ないんだ。だったらパパも危ないと言ったら、パパは大人だから平気と聞いた。僕はまだ子どもなので、工事の場所を歩いたらいけないんだね。 「いい子だ。ほら、大人しかいないだろう?」  顔を上げた先では、プルソンとアガレスが紙を覗いていた。何か話す横で、マルバスが付き添って石や煉瓦を運ばれてくる。本当だ! 大人ばかりだよ。 「どこに作るの?」 「この辺りだな」  パパの手がぐるりと丸を描く。広場の脇の方だけど、日陰だった。ここでいいの? お魚さん、日向ぼっこできないと思う。 「水は日差しが強いとお湯になる。貝や魚が死んでしまうぞ」 「そうなの!?」  びっくりした。魚はお風呂に入れないんだね。お水じゃないとダメで、温かくならないように日陰なんだ。 「ここは朝からお昼まで日が当たる。その後は日陰だから、池にぴったりの条件が整う場所だ」 「知らなかった。お魚さん、喜んでくれるといいね」  パパやアガレス、プルソンが考えてくれた場所だから、魚も安心して泳げそう。マルバスが運んだ石を、アモンが銀の剣でざくっと切る。凄い! 柔らかい物を切るみたいに半分にしたよ。 「……剣や技の使い場所が間違ってるが、今回はしょうがない」  ぼそぼそとパパが文句を言う。何かアモンが間違えたの? 許してあげて欲しい。今の切り方もカッコよかったよ。 「あのくらい、俺も出来るぞ」 「うん。パパなら出来ると思う」  今回のパパは僕を抱っこする役だから、アモンに譲ったんだよね。にこにこしながら見上げると、パパも笑った。嬉しい。  あっという間に四角く切られた石が積まれて、丸い形を作っていく。あの丸の中に池が出来るんだとしたら……お水はどうするんだろう。隙間があるとお水が出ちゃうんじゃないかな。 「カリス様、池の見学ですか」  プルソンが来たので、僕は直接聞いてみることにした。僕が知らないことを教えるのがプルソンのお仕事で、遠慮しないで聞くのが僕のお勉強になるの。僕とパパは話さなくても通じるけど、アガレスやプルソンは僕が声に出さないと分からない。だから話をする練習にもなるんだって。 「あのね。池を石で作るとお魚さんが死んじゃうよ」  僕はまだお話が下手で、ちゃんと伝わらないこともある。今のはダメだった。振り返った僕にパパが頷く。もう一度挑戦するね。お話をいっぺんにしないで、何回かに分けよう。 「池を石で作るでしょ?」 「はい」 「隙間があるみたいなの」 「そうですね」 「お水は隙間から出ちゃうと思う。お魚さんは水がないと死んじゃうと聞いたから、心配なの」  ちゃんと説明できた。ぱっと笑顔になって振り返る。パパの大きな手が僕の頭を撫でた。上手にできたよ。 「きちんと伝わりましたよ。よく出来ましたね。答えをお返しします」  プルソンが僕を褒める言葉が嬉しい。パパの手が、後ろに落ちた帽子を直してくれた。熊の頭の部分で、丸い耳が付いてるんだよ。アモンが作ってくれたから、ちゃんと着ないといけいないね。魚の縫いぐるみもしっかり抱っこし直した。 「あの隙間には、粘土を詰めるんですよ。手伝ってみますか?」 「僕も出来るの!? やりたい!」  パパもプルソンも、いいよって言った。隙間に入れる粘土は、固くなると動かなくなるんだよ。お手伝い、楽しみだな。
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